第005話『断除力』
いばら姫のいばらの棘は難易度☆8であるが、それはいばら姫に近づけば近づくほど難易度が高くなり、そして良質な素材となる。
今回採れた質は中の下といったところではある。だが、俺が使えば確実に最高の素材として扱える。
なぜなら、俺は解除師だからだ。協会でも匙を投げた…いや、解くに至らなかった呪い。
俺でなければ…いや、必ず俺が解くだけだ。
「じゃあ始めるぞ」
ダレンは帰宅後すぐに準備を開始する。ルースとオーウェンはその場に佇み、祈ることしか出来ない。
「ダレン殿よろしくお願いします」
ダレンは頷き、フランに声をかける。
「フラン手伝って欲しい」
「はい、もちろんです」
フランは持ち帰った素材をオーウェンから受け取るとそれを机の上に置く。
・スケルトンの涙
・真珠の葉の真珠
・いばら姫のいばらの棘
以上が今回の必要素材――
「それでは始めますね」
他のふたりは見守るしか無かった。
「じゃあフラン教えたとおりにやってみなさい」
「はい、分かりました」
《いばらの呪い》の解呪――
1.まず、真珠の葉の真珠をスケルトンの涙の入ったガラス管へと入れる。
2.そして、それを火で熱しながら三十分ほど待つ。
3.すると、真珠にヒビが入るため、そこにいばら姫の棘の中にある数量だけ採取できる核を取り出し、削る。それを、ガラス管へ入れる。
4.そして、そのまま熱し続けると真珠の中にいばらの棘が入り込む。
5.すると、真珠のヒビから細いいばらが生えてくる。
6.その状態に入れば熱するのをやめて冷やす。
7.時間を置くとそこから生えた、いばらが真珠に纏い始める。
8.真珠が見えなくなるくらいまで巻き付くのを待つ。
9.それを慎重に取り出す。
「ダレン様、できました」
《いばらの呪い》を解呪することに使用する材料
"いばら姫のいばら真珠"
いばらが纏う真珠の姿はそこらに落ちているような石等に見える。
それをピンセットで少女の口に運ぶ。
「それは口にして大丈夫なのか?」
「はい、これで呪いの進行を遅らせることが出来ます」
「あとは解除師の仕事だ」
まず、解呪はこの"いばら姫のいばら真珠"のみでは不可能である。症状の進行を抑える効果はあるが解呪はできない。なら、なぜ作ったのか――
それは、解呪の成功率を上げるためである。
《
何もせず、《断除力》を使用しても普通の状態ではほぼゼロに近いパーセントのところをこの"いばら姫のいばら真珠"を使用すれば解呪の可能性は格段に跳ね上がる。
俺達、《解除師》に失敗は許されない。失敗すればそれはもう解除師とは呼べない。
だからこそ、俺達は《解除》するために必要なことをする。
完全に断ち切るために――
もちろん、使用する相手がどんな状態だろうと《解除》するのが
「頼むぞ」
恐らく、教会の司教は何度も解呪をしようとしたのだろう。だが解くことが出来なかった。だからふたりは俺のところにきたのだ。
この"いばら姫のいばら真珠"があれば教会で治すことは出来るだろう。時間をかけじっくりと呪いを解呪する。そうやって司教達は人の呪いを解く。
しかし、今回は"時間"が限られていた。限られた時間の中で司教達は自分達の力を使った、それでも"いばら姫"の呪いを解呪することは難しかった。
現在も"人の使う呪い"と"魔族が使う呪い"は完全に解くことが出来ないのものが多くある。《魔王》と《八貴族》の使う呪いは特に多い。人類の脅威となりえる。それだけ強い呪いということだ。
ただ、《いばらの呪い》にも強弱がある。弱い呪いであれば司教達でも解けるだろう、だが今回は違う。
「2人とも、シュエルが《いばらの呪い》を受けた時にその場にいたのか?」
「いや、いなかった。消えたシュエルを探して倒れていたところを見つけたんだ」
なるほど…。どうやら、彼女は出会ってしまったらしい。
《いばら姫》に────
でなければ、司教が解呪できないはずがない。
《いばらの呪い》は《いばら姫》またはその配下となる《食人植物》から受ける呪い。
その配下の中でも《食人植物》から受けることが普通だろう。
その呪いは《いばら姫》と比べるなら弱く司教でも解呪できる。だが、今回は別だ────。
明らかに違う、俺も何度か《いばらの呪い》を見てきたがこの呪いの強さは次元が違うようだ。
一般冒険者が《いばら姫》から直接呪いを受けるとは…。どうやら、この子に直接話を聞く必要があるようだ。
「フラン、見ていなさい」
解呪することにおいて、1度でも失敗すれば再度素材の取得が必要になる。
そんなリスクがあるからこそ、俺たち解除師がいるのだ。
俺たちの扱う解呪する力は司教や他の者が扱うものとは違う。
《
ダレンは息を吐く。
《
その瞬間、少女の身体を纏っていたいばらが崩れ落ちる。そして、少女の表情は和らぎ、落ち着いていく。
フランはその姿をじっと集中して見つめていた。
少女が落ち着き、ダレンは流れた汗を拭き取ると後ろを向いて2人に伝える。
「終わったぞ」
ようやく解呪が終わった。その言葉で2人は歓喜する。
「ありがとう、本当にありがとう!」
「ダレン殿…ありがとうございます………」
「今日は寝かせてあげてくれ。明日には目を覚ます」
次の日、少女は目を覚ました。
「あれ…私……」
同じように2人は歓喜し、ダレンに感謝を伝えた。
「良かった、これを飲むといい。体力が回復する」
ダレンは飲み物を差し出すと少女は首を傾げた。
「あ、あなたは…?」
すると、オーウェンが説明する。
「この方は《解除師》のダレン殿、そして隣の方がその助手のフラン殿です」
「フラン・エレクトリアムです。ダレン様の助手兼弟子兼家政婦兼その他です」
ぺこりと頭を下げるとシュエルもまた挨拶をする。
「こちらこそ、シュエル・マキマエルです」
「って、解除師様ですか!?あの、あの王宮の?」
「いや、違う。王宮の解除師では無い。普通の解除師だ」
「あ、そうだったんですか。でも、本物の解除師様に出会えるとは思いませんでした」
興奮気味のシュエルはダレンに渡された飲み物を飲み込む。そして、フランが黙ってパンを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
フランからパンを受け取ると口に運ぶ。
「美味しい、ありがとね」
フランは黙ってその場から立ち去る。
「悪いな、少し人見知りなんだ。調子はどうだ?」
体調を聞くとシュエルはうーんっと考えた後答える。
「良いと思います、それよりも本当にありがとうございました」
「いや、気にするな。仕事をしただけだからな。それよりも仲間3人で話す時間もいるだろう。落ち着いたら呼んでくれ、隣の部屋にいる。後で少し話を聞きたい────」
そして、3人を残して、ダレンは隣の部屋に行く。扉から出るダレンに3人は改めてお礼を伝えた。ダレンはそのまま部屋を後にした。隣に借りていた部屋に入るとお辞儀するフランがいた。
「フラン、気を使えることは良いことだ」
頭を撫でられて喜ぶ。
「いえ、今回は運が良かったのですね。普通なら死んでいましたよ、あの二人」
「そうかもしれないな」
今回は運が良かった。そこまで強くない食人植物ばかりでオーウェンでさえ撃退できていたのだから。恐らく、いばら姫がどこかへ行っていたからなのかそれとも本当にたまたま敵が弱かっただけなのか。理由は分からない。
かもしれない、と言ったのはそれが理由だった。
それでも、助けられたのならそれでいい。運もまた実力の内なのだから。
「だけど俺がいるなら死なない、だろ?」
「その通りです、ダレン様。それにあの女の子を見てダレン様の表情が変わったのは《いばら姫》から直接呪いを受けたと思ったからですか?」
「その通りだ、根深い呪いは術者本人から受けることが多いからな。偉いぞ、良く気づいたな」
もう一度頭を撫でられ喜ぶフランは笑顔になる。
「ダレン様、それよりも今回の旅の話を聞かせてください」
すると、ダレンは笑みを浮かべて答える。
「そうだな。フラン、お前を楽しませられるような話をするために俺は解除師として依頼者と旅をしている。付いてくるのも良いがこうやって話を聞くことの方が好きだもんな」
「はい、自分で素材集めをすることも楽しいですがダレン様からの話を聞くのが一番好きです」
そんなフランをベッドに腰掛けるように告げて自分は椅子に腰掛ける。
「じゃあ話をしようか、今回冒険した2人の冒険者、ルースとオーウェン、そして2人と今回の少女、シュエルについて────」
終わり。
異端解除師-どんな呪いだろうと病気だろうと解除できる能力者は依頼者とともに旅に出る- 智天斗 @tomoteto
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