第52話 帰国

 五軒家たちが台湾での戦いに挑んでいたその頃──

 国内では、2名の女優の撮影スケジュールが重なってしまっていた。


 その対応を、五軒家は信頼するスタッフである田邊と田原に一任していた。


 そして、帰国後まもなく──


 一つの大きな転機が訪れようとしていた。

 山本みずきの卒業である。


 山本は、この9月で26歳を迎える。

 業界では、いわゆる「節目の年」と言われる年齢だ。


 だが、山本に不安はなかった。


 この2週間で得たもの──

 それは、キャリアでも賞でもなく、**“信頼”と“希望”**だった。


 あれほど熱狂し、涙し、支えてくれた仲間たち。

 そして、観客。


 その全てが、彼女に「次の一歩」を与えてくれた。


 ──まさに僥倖だった。


 五軒家たちと出会っていなければ、今の自分はなかった。

 山本は、そう思っていた。


 桃源郷は、今回のTier1入りによって、ついにメジャーメーカーの仲間入りを果たした。


 しかし──その躍進の裏にある「仕掛け」について、業界の誰もが理解していたわけではない。


 唯一、その全貌を知っていたのは──

 ANVIAの亀井を除けば、生配信をリアルタイムで視聴していた限られた者たちだけだった。


 だが、誰一人として、それを口外しようとはしなかった。


 あの時、何が起きていたのか。

 何が、人々の心を動かし、Tier1に押し上げたのか──


 制作会社の者たちは、必死で「秘密」を探った。

 しかし、そこにあったのは数字では表せない、熱量と物語だった。


 山本みずきの引退が正式に決まった。


 ラストとなる作品をもって、彼女は女優としてのキャリアにピリオドを打つ。


 収録が終わった日。

 五軒家は静かに、そして率直に尋ねた。


「……引退、後悔してませんか?」


 山本は、力強く笑った。


「はい! 本当に、ありがとうございました!」


 加護がそっと口を開いた。


「これからは、どうしていくつもり?」


 山本は、迷いなく言った。


「私、桃源郷さんでまた働きたいです!」


「え?」


「どんな仕事でもかまいません。

 雑用でも、撮影の手伝いでも……この現場に、もう一度関わりたいんです!」


 五軒家は一瞬だけ、言葉に詰まった。


 だが、すぐに頷いた。


「……わかりました。

 正式に社員にするかは、一度考えました。

 でも、作品に愛がある人間に、年齢なんて関係ないですから」


 その瞬間、山本の目が潤んだ。


 こうして、桃源郷は新たなスタートを切った。


 その後、五軒家は「帝王プロレス」とのパートナーシップ協定を結んだ。


 プロレスとAV──一見、相容れない世界。

 だが、どちらにも共通しているのは、「見せることのプロ」であるという事実だった。


 そして、五軒家にはもう迷いはなかった。


 ──AVという世界を、もっと“人間味のある舞台”へ。


 感情を、汗を、命を描くコンテンツへ。


 そうして、五軒家は静かに、そして確かに、**業界改革の狼煙(のろし)**を上げたのであった。


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【完結】桃源郷プロジェクト パンチ☆太郎 @panchitaro

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