海の中から見上げた世界は、どこまでもまぶしく、人間という存在は恐ろしくて奇妙です。主人公はそんな世界を静かに観察しながらも、ある日、一人の子どもと出会います。その瞬間から、無機質だった日々がほんの少しだけ鮮やかに変わっていくのが感じられます。
人の子がくれたのは、紅い石のようなもの――アメザイク。その甘さもわからず、ただ沈むそれを追いかける姿には、不思議な切なさが漂います。やがて訪れる不可解な現象や変化の中で、世界の在り方が静かに、しかし容赦なく揺らいでいくのが印象的です。
物語の最後、溶けるはずのものが溶けず、残るはずのないものが残る。何かが終わったようでいて、まだ続いている気配を残す結末が心に引きを残します。溶けてしまうものと溶けないもの、その違いはどこにあるのかふと考えさせられます。