狂い咲きの白彼岸花2~闇に浮かぶ彼岸花~

夢月みつき

本文「白彼岸花と白椿」

 良かったら、前作もお読みください。

 前作「狂い咲きの白彼岸花」お題「骨」参加作品

 https://kakuyomu.jp/works/16818093092533787895





 ◆登場人物紹介◇

 ・ランセル=せき二郎じろう

 前作で美作財閥の令嬢の美作佐千恵を救った佐千恵の側仕えの年齢不詳の不思議な青年。


 ランセル=せき二郎じろう(AIイラスト)

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093092562373714


 ・美作佐千みまさかさち

 美作みまさか財閥ざいばつの一人娘、前作で関二郎に救われた。可憐だが、自由奔放な18歳の少女。

 美作佐千みまさかさち(AIイラスト)

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093092562435647



 ♠♤∴─────────────────────────∴♠♤




 ここは美作家の屋敷、ランセル=せき二郎じろうはこの家の御令嬢、美作佐千みまさかさちにいつものようにおやつの熱々の緑茶と和菓子を持って部屋に向かっていた、今日のおやつは黒糖こくとう饅頭まんじゅうである。


「――お嬢様、佐千恵お嬢様、関二郎です。お茶の時間ですよ」

 障子に向かって声を掛ける関二郎だったが、何度か声を掛けても返答が返って来ない。

「おかしいな? 今の時刻ならいらっしゃるはずでは」

 関二郎は「失礼します」と一言断ってから障子を開けて部屋の中に入った。


 しかし……部屋の中はもぬけの殻で、本が散らばっており、部屋が少し荒らされている感じがした。


「これは! お嬢様は一体どこに」

 

 しかし、このようなことが父親の美作権みまさかごん衛門えもんや屋敷の者に知れれば大ごとになるのは明白で。


 関二郎は、彼女の残り香に意識を集中させて佐千恵の居場所を探った。

 脳裏にどこかの館に拉致されている佐千恵の姿が映った。


「お嬢はそこか! 待っていろ、今すぐに」




 ◆◇





 その瞬間、関二郎の姿はふっとその場から消え、次の瞬間には佐千恵が拉致されていると思われる洋館の庭へと現れた。関二郎は見張りの男達を物陰からそっと伺う。

 大柄な中年の男達が笑いながら話をしている、「今度、館に運び込んだ女は一体、誰なんだろうなぁ。ありゃ、なかなかの上玉だった。七太郎しちたろう様も助平すけべいだな、へへ……」



莫迦ばかッ、それ以上言うな、俺達はただの雇われだ。余計なことを漏らせば首が飛ぶぞ!」

「へへ、そうだった。そうだった!」

 どうやら、男たちはその七太郎と言う男に雇われたらしい。


「そう言うことか」関二郎は色素の薄い白の瞳を鋭く細めた。

 

 リィン、リィン……と鈴の音が辺りに響く。

 

 男達は警戒して「誰だ!」と辺りを警戒しながら見まわした。


 辺りが薄暗くなり、一瞬にして男達の周りに白い彼岸花が咲き乱れる。

 季節外れの花が咲き、その場だけがまるで、別の空間のようだ。



「急に辺りが暗くなって、それに白い彼岸花? この季節に妙だな。それにこの鈴の音はなんだ」


 怯え始める男達、次の瞬間、鈴の音と共に関二郎がその場に現れた。


「なんだ!? お前、急に現れやがってなにもんだ」


「お前達は、佐千恵お嬢のことを知っているな?」


「佐千恵って誰だ! お前は誰なんだ、無事で帰れると思うなよおぉぉぉッッ!!!」

 

 男達は関二郎に襲い掛かって来た。


「無駄だ、お前達はもうそれ以上、動くことは出来ない」


 金縛りに掛かり、体が鉛のように重たくそれ以上、動けない。


「うっ、体が動かんっ!」


「てめえ、餓鬼がき、なにをしやがったぁ!」


「ふふ、お前達と遊んでいる暇はないんだ。早く案内しろ、ほらそれ以上、無理に動くと……」



 関二郎が白彼岸花に命じると花から、白く輝く粉のようなものが舞って男達を包み込んだ。すると、突如、男達は苦しみだした。


「ぐあっ、苦しいッ! なんだこれはー!」胸を掻きむしる男達。


「それははざまの彼岸花、僕のしもべだ。さあ、早く案内しないと毒が体内にまわるぞ」

 

 男達は青ざめて関二郎に戦慄した「助けてくれッ、嫌だ、死にたくねえー!」一人の男は関二郎に懇願して降伏した。

 だが、もう一人の男は一歩も退かない。



「……ねえ、おじさんさ。僕もこれ以上、時間を掛けたくないんだよ。少し意識を奪ってあげようかね」


「――“僕を佐千恵お嬢の元へ連れていけ!”」



 良く通る声で強くそう命じられ、男はふらりとまるで、催眠術に掛かったような状態になった。





 ◆◇





 その頃の佐千恵は、洋館の寝室に捕らわれていた、ベッドに腕をロープで縛られてさるぐつわを噛まされている。


「んーッ! んんーッ!!」

 

 苦しそうに身をよじる佐千恵、ベッドの脇には太った男性が嫌らしい表情で、佐千恵を見ていた。この男がこの館の持ち主の御曹司おんぞうし、七太郎だ。



「うふふ、佐千恵ちゃ~ん。僕達、これから夫婦になるんだから今すぐ、やっちゃってもいいよねえ?」

 


 七太郎は興奮して、ハアハアと鼻息も粗くしながら何と、ベッドに乗っかって来て佐千恵の上に覆いかぶさり、唇を舐めようとして来た。


「んんーーッッ!!」涙を浮かべて、佐千恵は身をよじって強く七太郎に抵抗する。

 

 それを見て、醜悪に七太郎は笑う「うはは、佐千恵ちゃーん。所詮、女は女。男には敵ないっこないんだよ? 観念しなよ」



 その刹那、部屋の明かりが一瞬で消え、白彼岸花が一斉に咲き乱れた。


「なっ、なんだ! 花が空中に浮いてッ!」その様子に驚愕する七太郎。


 佐千恵も驚いたが、その彼岸花を見てあの、はざまの世界の光景を思い出していた。

 


 リィン、リィン、リィン……



 鈴の音が響く、七太郎の後ろには関二郎がゆらりとまるで、幽鬼ゆうきのようにたたずんでいた。


「おまっ!」

 

 七太郎が振り向く間もなく、彼岸花の花粉が七太郎を取り込む。

 関二郎は、七太郎の耳元で美しくゾッとするような恐ろしげな声でささやく。


「よくも、僕のお嬢を傷つけ、手を出してくれたね……? 一度、死んでみるか」

 

 その声を聴いたとたんに、七太郎はふっと意識を失い、床に勢いよく転がり落ちた。


「お嬢様、ご無事ですか?」


 関二郎はさるぐつわを取って、ロープを小刀で切り佐千恵を解放した。


「関二郎ッ!」

 

 彼女は泣きながら関二郎に抱きつき、彼は佐千恵を抱きしめて「大丈夫、僕がいますから」と穏やかな表情で背を撫でてやった。




 しばらくして、美作財閥の当主、美作権左衛門の通報で警察が館に乗りこんで来た。

 関二郎と佐千恵の証言で七太郎は捕まり、監獄に入れられた。

 その後、数々の犯して来た悪事も暴かれたと言う。七太郎に甘かった父親もとうとう、愚息ぐそくを見放したそうだ。


 あれほど、頑固だった権左衛門も反省して、七太郎との婚約を破談にし、佐千恵に謝ったらしく佐千恵自身も驚いていたが、これで、佐千恵を苦しめていた政略結婚は無くなった





 ◆◇





 佐千恵は部屋で緑茶と黒糖饅頭を食べている、関二郎も一緒だ。


「関二郎、ありがとう。助けてくれて」


「おお、今日は素直ですね、佐千恵お嬢様」

 わざとらしく、驚く関二郎に佐千恵はむっとした。


「今日はって、あんたねえ!」

 

 佐千恵が頬を膨らまし、眉を吊り上げて関二郎を軽く睨む。



「ふふ、冗談ですよ。でも、良かったご無事で」

 

 関二郎の瞳に熱がこもる、彼は佐千恵の両手を握って手の甲に口づけをした。

 ドキッと胸が高鳴って頬を染める佐千恵。


「関二郎、私、あんたが好きよ」



 その言葉に関二郎は一瞬、頬を染めて少し驚いたような顔をしたが、柔らかく微笑みを返した。


「僕もお嬢が好きですよ……」


「ねえ、関二郎……あんたは不思議な人ね。あの世界からも、七太郎からも私を助けてくれた。あんたって、ほんとうは何者なの?」

 

 佐千恵は黒曜石こくようせきのような澄んだ瞳で、関二郎の白の瞳をまっすぐに見つめる。


「そのように見つめられては仕方ないですね、教えましょう。僕はね……あなた達のような、普通の人間ではないのですよ。黄泉よみのはざまの番人と言えば、多少は理解出来ますか?」


「ううん、全く理解出来ないけど、黄泉ってあの世のこと、本当に? うん、でもこんなに強くて不思議なことが出来るんだもんね! 信じるわ、私、びっくりしちゃった」

 

 佐千恵は関二郎に微笑み掛ける、関二郎も佐千恵に微笑む。

 不思議な青年、関二郎の秘密を知った佐千恵と、関二郎のある日の夕方のことだった。


 -終わり-       



 ♠♤∴─────────────────────────∴♠♤

 最後までお読みいただきありがとうございました。



 良かったら、新作があります。続編ではありませんが「狂い咲きの白彼岸花」のはじまりの物語です。

「狂い咲きの白彼岸花~はじまりの唄~【1分で読める創作小説2025】」

 https://kakuyomu.jp/works/16818792440244685465


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