仕事や恋愛、家庭などに疲れた人向けの優しく柔らかいお仕事系小説。
……と、良くある社会人向き・女性向き小説のように感じるかもしれませんが、この作品はひと味違います。
ただ甘く優しく都合の良い内容ではなく、登場人物たちはみな「進歩」を求められ、それを達成していくための「現実的な厳しさ」をしっかり描写した小説なのです。
しかし、そんな厳しさや苦しさを感じさせない内容なのは「登場人物たちの相互互助」とも言える優しさの与え合いが中心にあり、各キャラクターが持っていない能力をそれぞれが補完しあっているからでしょう。
ただ他人に甘く優しいだけではない、各人が自分の世界を分け与えて支え合う優しさ。この筆致が秀逸であることが賞を受賞し書籍化している理由ではないかと考えています。
また女性向き作品ではありますが、男性でも楽しく読めると思います。
作者様の得意ジャンルである、多岐にわたる仕事趣味の描写は新しい世界を教えてくれますし、ドキドキ・ワクワク感もあるはずです。
優しさの環をつなぎ閉塞感ある世界から開放される優しい物語。
読者にも世界の広さを感じさせてくれる元気が出る作品です。
読んでいくごとにじわじわと面白くなっていくスルメ的な魅力を持つ作品です。
この作者様の作品をみていつも思うのはキャラクター、特に女性をとても魅力的に書かれるなと言うことです。
自由でマイペースな莉恵子と真面目で面倒見の良い芽依、そして莉恵子の家族や仕事の関係者達の心情や掛け合いもわかりやすく時にコミカルに、時にシリアスに描かれていると思います。
強いて言うならキャラクターの年齢層が高めな事や、序盤にあまりストーリーが動かないあたりはライトノベル的な作品が中心のカクヨムやなろうでは評価されづらいのかなとは思いました。
むしろ一般文芸の賞などの方で評価されそうだなと感じます。