魔術士エクアは〈元勇者〉

晴る

第1話

「ガチャン!」


 俺は無言で家の玄関を出た。


 ほとんどの日本人は、義務教育を終え高校を卒業し、場合によっては大学に進学する。


 ただどの道を選択しようが最終的には職に就く人間がほとんどである。だが、全ての人がそれを望んでいるわけではない。社会の中で普通の生活を送るために仕方なく仕事をし、お金を稼いでいる人もいるだろう。


 いや、多分ほとんどの人がそうだと思う。だからと言って仕事をしないと引きこもりニートなり社会不適合者なり言われ放題である。


 そんなことを言っている俺は、仕事をしているのかというと社会人2年目のサラリーマンだ。無事社会の常識に流され全然興味のない社会の家畜になっている。


 そんな俺のスケジュールを紹介してやろう。明日は企画書の締め切り、明後日はプレゼンテーションの資料締め切り、その次の日はプレゼンテーション本番。このスケジュールを見てくれたらわかる通り、俺はいまこの人生に明け暮れている。


 そんな俺が今ハマっているのは真夜中の散歩。誰の目も気にしなくてよく、服装も部屋着のジャージのママでも何も問題ない。

 普段明るく人がたくさんいるところが、真っ暗で誰もいないとなんというのだろうか。いやなことに限らず、すべてを忘れることが出来ているような感覚になれる。


 普通に考えれば仕事がたまっているこの状況でこんなことをする時間は無いと思うだろう。だが、この時、この瞬間だけはあの俺のクソみたいな人生スケジュールからおさらば出来る。一種の現実逃避のようなものなのだろうか。


 しかし、だからと言っていつまでも現実逃避をしていても仕方がない。


「ピピピピ、ピピピピピー」


 ハズレか......


 俺は、帰りの自販機で気を引き締まるためのジュースを買った。


 自販機から取ったジュースを片手に、家の方へ歩き出した瞬間、自分の足元が徐々に光始めた。


「な、なんだ!」


 自分の足元を確認すると、魔法陣のようなものが描かれていた。


 見る見るうちに光は目を開けていられないほど強くなっていき、視界を失った。


 やがて俺はその場で気を失い倒れてしまった。

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