カスミの頭の羽

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「ねえ、ジョージ! リーにいばっかり、ずるい! 私たちも、描いてよ」

「描いて、描いて!」

 幼い少女二人から、からまれるジョージ。

 目の前のイーゼルには、描きかけのキャンバス。モデルは、リーニー嬢だ。

「うん、確かにな……。もちろん、リーニー嬢は愛らしい。油絵のモデルには、もってこいだ」

 そこで、咳払いする。ちらりと私の主人を眺める。

「は? ジョージ・リサージュ。貴様はもうリーニー嬢は描き飽きたと。そう言いたいのか?」

 ズイッと凄まれる。ジョージは、怯まない。腰に手を当て、片手で頭をかきむしる。

「そうじゃない。薔薇が美しいからと言って、毎回、同じアングルから見ていてはさすがに飽きるだろう」

「そんなことはない」

 言い切る主人。ジョージは、溜息を吐いた。

「いいのか、そろそろリーニー嬢も十歳になるだろう。特別な時には、特別な絵を残したくはないか」

 主人は、はっとした。

「確かに……。それは一理あるな」

 部屋中をぐるぐるする。主人は、落ちた私の羽を拾った。白ふくろうの美しい羽だ。日光に透かして見ている。

「これだ! これだよ、ジョージ」

「羽がどうかしたか」

 二人並んで、リーニー嬢に向かい羽を重ねて見る。

「なるほど、天使か。悪くない」

 ジョージがニヤリと笑う。ニコッと笑い返すリーニー嬢。

「くっ。リーニー嬢が尊い」

 口元を押さえている。

「で、描けるな。ジョージ」

 ジョージは、足ごとターンして、こちらを見た。

「私は、実際、目にしたものしか描けないぞ」

「じゃあ……。むしるか」

 もちろん、私は即座に逃げ出した。


 *


「と言うようなことがありましてね。カスミ、あなたもいつまでも、頭から羽を生やしていてはいけませんよ。人間の子供になる時は、羽は引っ込めなさい。お父様からの命令ですよ」

「はあい、とっと!」

 カスミが手を挙げる。

「ええ、私、ジョセフじゃないんだから、頭の羽むしったりしないよお」

 アステロッテがむくれる。

「まあ、そうでしょうがね」

 ちらりと黒猫を見る。人間の少年に化けたツキだ。

「いいですか、カスミ。元の姿の要素を残したまま、人間に変身するなど、三流のすることですよ。あなたは、アステロッテの従者なのですから、羽は出さないのですよ」

「うん、でも、羽あったほうが可愛いって」

 カスミのほっぺたをむに~っとする。

「そんなだから、若作りの黒猫から『鳥頭』よばわりされるのですよ」

「むうっ」

 ほっぺたをさする。

「だよね。ツキ、子だくさんだもんね。本当は、大人だよね」

 アステロッテは、はっとした顔をしている。

「あいつ、半ズボンはいてやがる……」

 とっても、引いている。

「うわあ……」

「ツキ、かわいこぶりっこ!」

 娘をなでなでした。


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カスミの頭の羽 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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