魔法少女トレジャーチェリー

にゃべ♪

最終話 トレジャーチェリーよ永遠に

(今までのあらすじ)

 ある日、空から落ちてきた不思議な羽を拾った中学生2年生の清水ハルカは、その本体を探して不思議な丸っこいぬいぐるみの鳥のような謎生物を発見。彼は自らを『トリ』と称し、この世界に眠る10個のお宝を探していると告げる。

 その話に興味を持ったハルカは「私も手伝う」とトリに迫った。助手が欲しかったトリはこの話を受け入れ、探索がしやすいようにとハルカを魔法少女に変身させる。


 様々な冒険を経て9個までのお宝は集まった。残り1個のお宝を探して、トリとハルカは冒険の旅を続けている――。



「ハルカ、本当にここかホ?」

「うん、ダウジングだとここが一番反応が強いんだ」


 ハルカは広げた地図の上でトリの羽を使ったダウジングを行い、お宝の位置を特定する。今までこの方法でお宝を見つけてきた。成功率は50%。ほぼ博打なものの、前回外れたので今回は当たると言う確信を彼女は持っていた。


「ちょっと遠いから変身して行くよ」

「ちょ、ボクを置いてくなホー!」


 手にした羽を空にかざす事で、ハルカは魔法少女トレジャーチェリーに変身する。ピンクの魔法少女衣装に身を包んだ彼女は、変身アイテムの羽を羽ペンのようにして空中に魔法陣を描いた。そうする事で彼女は様々な魔法を使う事が出来るのだ。

 今回は飛行魔法を描き、さっき見つけた場所に向かって一直線に飛んでいく。その速さは時速100キロを超え、トリは必死に羽ばたくものの全く追いつけなかった。


「先行ってるねー!」

「ちょ、待つホー!」


 超高速で飛ぶ事3分ちょっと。チェックポイントに着いた彼女は降下する。その場所にあったのは、日本の田舎には似つかわしくない古びた洋館だった。


「ここならお宝がありそうね」


 人はもう住んでいないようで、廃墟じみたその館に入る前にチェリーはゴクリとツバを飲み込む。ちょっと怖いので相棒を待っていたものの、5分待ってもこなかったので、彼女は覚悟を決めて洋館のドアノブを握った。


「やっぱ鍵かかってる。解錠!」


 魔法を使って鍵を開け、チェリーは中に入る。もう何十年も人が入っていなかった館の中はいい具合に朽ちており、しかも薄暗かったので魔法で室内を明るく照らした。

 これで探しやすくなったので、彼女は探索を開始する。


「まずは1階から」


 1階フロアを巡って何も見つからず、玄関まで戻ってきたところで入ってきたトリと合流。チェリーは頬を膨らませながら腰に手を当てた。


「おっっそーい!」

「君が早すぎるんだホ!」


 しばらく口喧嘩をしてお互いに気が晴れたところで、チェリーはトリを掴む。そうして、その両翼を引っ張った。こうする事でトリのお宝センサーが働き、その有効範囲内にお宝があると確実に見つける事が出来るのだ。


「見つけたホー!」

「やた!」


 2人は協力して無事洋館に隠されていたお宝『虹色の琥珀』をゲットする。ついに10個集まったと言う事で、トリのテンションは最高にハイになった。


「やややややったホー! これでこれでこれでミッションクリアだホー! ホホホホーッ!」

「落ち着け」


 チェリーはトリの頭にいい感じのチョップをかます。


「で、集まったらどうすんだっけ?」

「まずは外に出るホ」


 トリいわく、集めたお宝を地面に正しく並べる事で封印が解除されるらしい。土の上なら場所はどこでもいいらしいので、館の前庭でその儀式をする事にした。


「探して始めて半年くらいかかったけど、全部見つかって良かった」

「チェリーが協力してくれたからだホー!」


 2人がウキウキ気分でドアを開けると、そこにはいつもお宝探しの邪魔をしている魔法少女ブラックマリーと相棒のヘビマスコットのナーロンが彼女達を待ち構えていた。

 黒い魔法少女衣装を着たマリーは、ジロリとチェリーをにらむ。


「儀式はさせない!」

「またあなたなの……」

「ゲットしたお宝を渡しなさい!」


 こうして、2人の魔法少女によるお宝を巡るバトルの幕が切って落とされた。2人共羽を羽ペンのようにして魔法を使う魔法少女だ。バトルはどれだけ早く正確に魔法陣を描けるかにかかっている。

 そうして、先に描けたのはチェリーの方だった。


「魔法火炎乱舞!」

「えっ、ちょっ、まっ……」


 同時に攻撃魔法陣を描いていたため、先に攻撃されたら打ち消しのために攻撃するか防御するかを選ばないといけない。マリーはこう言うのが苦手で、考えている隙に全弾命中。呆気なく勝負はチェリーの勝利に終わった。


「また私の勝ちね!」

「何でいつもこうなるの……」


 地面にバタリと倒れたマリーを放置して、チェリーはゲットしたお宝を並べ始める。トリの指導のもとに並べ終えると、虹色の光が発生した。光はすぐに大地に染み渡るように沈んでいき、直後に震度5クラスの地震が起こる。

 この唐突な展開にはチェリーもビビってすぐに地面に伏せた。揺れは数秒で収まり、彼女は立ち上がる。


「何が起こったの?!」

「始まっちゃった……」


 どうやらマリーは何か知っているらしい。それをちらりと横目で見たチェリーは、すぐに自分の相棒に詰め寄る。


「一体何が起こったの?」

「ボクも何も聞いてないホ……」

「教えたげる」


 マリーはチェリーに魔法スマホの画面を見せる。そこに映っていたのは太平洋に大陸が浮上した映像。


「まさか、ムー大陸?」

「大西洋ではアトランティスも浮上してる」

「あのお宝って、古代大陸を復活させるためのものなの?」

「私達はこれを止めたかった……」


 この超展開にチェリーは理解が追いつかない。彼女がぽかんと大きく開けていると、マリーが事情を話し始めた。


「トリの主人の『マザー』の目的は古代大陸の復活。復活した2大陸はやがて戦争を始めるでしょうね。そうなったら世界も無傷では済まない」

「嘘でしょ?! 私、そんな事のためにお宝を集めさせられてたの?」

「今ならまだ間に合う! チェリー、協力して!」

「マリーはこの状況から世界を救えるの?」


 チェリーの質問に、マリーはコクリとうなずく。その真剣な顔を見て信頼が出来ると判断したチェリーは手を差し出し、ここに魔法少女同盟が成立した。


「お前と手を組むとは思わなかったホ」

「それはこっちのセリフニョロ」


 こうしてマスコット同士も手を組み、全員がマリーの策に乗る。彼女の作戦はマザーを止めると言うもの。計画を立てた本人ならそれが出来るはずと言うものだった。

 話を聞いたチェリーは、グッとこぶしを強く握る。


「ヨシ、行こう! トリ、案内よろしく!」

「分かったホ。ボクも戦争はゴメンだホ」


 こうして2人と2匹はマザーのもとへ。彼女がいるのは時間の流れが地上とは違う異空間。その世界に浮かぶ大陸の中央にそびえる王宮にマザーは鎮座していた。

 彼女は身長が5メートルを超える長身で、白くてヒラヒラした特殊な素材の服を着ていた。まるで神様のような神秘的な雰囲気を醸し出している。


「トリとそのお供の魔法少女よ、よくやりました。反逆者まで連れてきてくれるとはお手柄ですよ」

「あの、何故あんな事を?」

「あの2大陸の因縁を解消させるためです。戦争の決着が付く前にお互いの大陸は海に沈みました。そのために、末裔が今も争い続けているのです。この争いはやがて環境を道連れに人類を滅ぼします。それを避けるためには、両大陸のカルマを精算しなければならないのです」

「よく分かんないけど、それって古代大陸が決着をつけないと防げないんですか?」


 チェリーは素直な疑問をぶつける。この好奇心にマザーはニッコリと微笑んだ。


「そうです。どちらかを根絶やしにすれば平和な世界が訪れるのです」

「怖……。でもそれって歴史改変だよ!」

「しかし、放置すればあなた達が滅びるのですよ」

「私は戦争は嫌! 今すぐ止めて!」


 チェリーは必死に訴える。どちらかの殲滅以外にも平和になる道があると。けれど、マザーは顔を左右に振るばかり。


「私も何度も試しました。けれどこれ以外に答えはなかったのです」

「じゃあ私達が考えるよ! 止める方法はあるんでしょう? 教えて!」 

「そう……。あなたはそのためにここまで来たのですね。仕方ありません。邪魔をすると言うなら消えてもらいます」


 チェリーの意図を理解したマザーは無詠唱で魔法を使う。魔法少女達も必死に応戦するものの、羽根ペンで魔法陣を描かなければ魔法を使えない彼女達は圧倒的に不利で、すぐに追い詰められてしまった。

 チェリーは肩で息をしながら、ゆっくりと歩いてくるマザーを見定める。


「やっぱラスボスはこのくらい歯ごたえがないとね……」

「マザーに反逆だなんてやっぱり無理だったホー! 今からでも謝るホ!」

「いや、まだ手はある!」


 桜色の魔法少女には集めた10個のお宝がある。これらはマジックアイテムでもあった。窮地に陥った時、彼女の頭にそれぞれのお宝の使用方法が脳に直接ダウンロードされていく。

 虹色の琥珀を選んだ彼女は、それをマザーに向けてかざした。


「くらえっ!」


 琥珀は魔法少女の魔法の力をエネルギーにしてビームを発射。直撃したマザーは尻餅をついた。


「何故だ? 何故お前がそれを使える?」

「分かんない! 突然閃いた」

「ギフトか、忌々しい!」


 さっきまで慈愛の塊のようだったマザーの顔がいびつに歪む。どうやらチェリーがお宝を使いこなしたのは計算外だったようだ。お宝で魔法が使えるなら、それは実質無詠唱魔法と同じ事だ。これでチェリーはマザーと同じ土俵に立てたと言う事になる。

 マザーはよろよろと立ち上がると、トリに命令した。


「トリ、そいつを殺せ!」

「分かったホー!」

「嘘でしょ?!」


 相棒の突然の裏切りに、チェリーは愕然として体が硬直する。その隙を狙ってトリが襲いかかってきた。


「隙ありホー!」

「やめるニョロ!」


 マリーの相棒、ナーロンがトリを止める。しかし、トリはすぐにでもナーロンを倒してこっちに襲いかかってきそうだ。そこで、マリーもナーロンに加勢する。

 投網魔法で動きを封じたものの、あまり長くは持たなそうだ。


「こっちは私達が押さえる。早くマザーを」

「う、うん……」


 マザーはチェリー達に向かって雷魔法を落とす。それも10個のお宝のひとつ『虹亀の甲羅』で防ぎ、チェリーは直感でこの場に最適なお宝を選んだ。


「あなたに相応しいお宝は決まった!」

「魔法少女ごときがほざくな!」


 マザーが魔法を使う前に、チェリーは10個のお宝のひとつ『鳳凰の虹羽』をかざす。七色の光はマザーを包み込むと、彼女を燃やした。


「ギャアアア! 熱いいいい!」

「嘘?! やりすぎだあ」


 チェリーが自分の下した選択を悔やんでいると、すっと炎は消える。どうやら魔法的な炎だったらしい。マザーはその大きさを10分の1にまで縮ませて、その場にバタリと倒れる。近付いて確認すると、呼吸はしているようだ。

 その様子からみて、あの炎は相手の力を奪うだけのものだったらしい。


「お前らウザいホー!」

「キャーッ!」

「嘘? 洗脳が解けてない?!」


 ナーロンとマリーを弾き飛ばしたトリがチェリーに迫る。その鬼気迫る勢いに彼女は一瞬怯んだものの、すぐに落ち着いて硬直魔法をかけた。

 トリはその間にも迫ってきていたものの、後10センチと言うところで動きはピタッと止まる。


「ふう、間に合った」


 チェリーは、変身にも使うトリの羽をトリの頭にブスリと突き刺す。この行為によって、マザーにかけられた洗脳は解けた。


「ここは誰ホ? 今はどこホ? ボクはいつホ?」

「ヨシ! 正気に戻った」


 マザーを倒したのは良かったものの、肝心の戦争を止める方法は分からずじまい。そこで全員が解決法を考え始める。

 いいアイディアを誰も思いつけない中、チェリーがまた閃いた。


「そうだ! お宝を逆に並べれば……」

「なるほど、やるだけやってみよう!」


 このアイディアを実行した時、お宝が共鳴する。虹色の光が10の方角に広がっていき、時間と空間の歪みを修正していった。



 気が付くと、ハルカは地元にいた。魔法少女衣装も解除されていて、相棒のトリもいない。すぐに時間を確認すると、彼女がトリと出会う前の日付が表示されている。

 そこで、ハルカは自分の身に何が起こったのかを把握した。


「そっか、時間が戻ったんだ」


 他に何か変わった事はないかと色々調べていると、ポケットに虹色の琥珀が入っていた。それを見た彼女は思い切り道路に向かって投げつける。

 琥珀は衝撃でバラバラになり、その力を失った。


「これでいい。もう古代大陸は復活しない」


 お宝が10個揃わなければマザーの計画は成就しない。こうして、ハルカは歴史改変を防いだ。そうなると、トリと出会う事もなくなるだろう。

 こうして、魔法少女トレジャーチェリーはハルカの記憶の中だけの存在になる。


「このまま忘れるのも悔しいから、覚えている内に小説にでもして書き残そうかな」


 そう独りごちるハルカの表情は、とても晴れやかなものだった。



(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女トレジャーチェリー にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ