第59話 黒竜(アーテル・ドラコー)の部屋

 お師匠さまに抱っこされて、一息ついて。

 だけど緊張感はとれない。

 さっき、とうていスルーできないことを聞いた。

「あなたは精霊さま!?」


「もちろんだとも」

 満面の笑みで、胸を張って。

「こんなにも美しいわたしが、ただの人間なわけはないだろう」


 この瞬間、納得したわ。

 たとえ夢にも見たことのない、どんなに神々しく麗しい存在であっても、確かに、この精霊さまは、カルナックさまのお師匠さまに違いないって。


 あたしを腕に抱いて、ため息をつく、お師匠さま。

「この子が初めて出会う精霊があなただとは大いに残念ですよ、グラウケー」

 ちょっぴり皮肉?

 けれど精霊さまは、にやりと笑っただけ。

「この子は孫弟子というわけだな。よろしく、初めましてかな。わたしは第一世代の精霊グラウケー。世界の大いなる意志に最も近しい存在である。ヒトは好まぬが中には美しい魂もあると知っている。歓迎しよう、孫弟子」


「ありがとうございます、お師匠さまのお師匠さま。アイリスです」


「ねぇったら、ボクも仲間に入れてよ! ここはボクの巣だってこと忘れてない?」

 不満を訴えたのは、メイド服の少女だった。

「歓迎するよ、新しいお客様は久しぶりだ。ボクは、アーテル。黒って意味だよ」

「初めまして、アイリスです」

「くつろいでね。せっかく、ボクの『巣』へ来てくれたんだ。ボクって面倒くさがりだから。ずっと鏡の中に巣ごもりしてたんだ」

「巣ごもり?」

 散らかったワンルームみたいなお部屋の中には、いろんなものがあった。

 テーブルとソファの応接セット。

 大人の背丈ほどもありそうな……地球儀!?

 おまけに月球儀、それに、もうひとつ。

 ずいぶん海の面積が広い。でも、よく見れば大陸の形は、アメリカ大陸とヨーロッパをくっつけたような感じ。

 これって何なのかな?


 床に散乱してるのは、一番多いのは、おもちゃ。

 積み木や、チェス、まさかと思うけど、将棋盤!?

 動物ぬいぐるみ、カードゲーム、それに本……羊皮紙に手描きされた写本に、大判の絵本もあるわ。

 印刷された文庫本みたいなのまである。


 不思議なのは、テーブルに、どう見てもパソコンのモニターがあるってこと。


 洋服は、作られた時代も国もバラバラで、子供服もあれば男性向けも女性向けも揃っていて魔法使いのローブもあれば商人、戦士、剣士、貴族向けみたいなもの、そうかと思えば、まるで地球の……たとえば21世紀の日本、パリ、ミラノ、ニューヨークで人気があったブランドのもの。


 おかげで、今はアイリスを守るために表層に出ている意識、イリス・マクギリスが大興奮しちゃってるの。


「すごいすごい! なにこれ見本市!?」

 思わず叫んだイリス・マクギリス。


「見本市ってなに? う~ん、なんか、わかんなあい。人間のものって面白いから。いろいろなところで拾って集めて、とっておいたのさ。ここでは、時間の経過はないようなものだしね」

 くすくすと笑う、黒髪の少女。


 あら?

 アーテル……この子、

 女の子じゃ、ない。

 それどころか、人間でもなくて。


 ドラゴンだった!

 それも、大きいの!

 さっきセラニス・アレム・ダルを背中に乗せていたルシファーはドラゴンとしては小さかったんだなって思う。

 アーテルくん、ほんとうは二階建ての家くらいの大きさで、ファンタジーRPGに登場したような姿で、全身は真っ黒。光を吸い込んでしまうみたいな、つやのない黒い鱗にびっしり覆われている。


「ありゃ」

 くすすっと。

「ボクの『本性』を見ちゃったね、きみ。アリス・月宮」

 笑ったのだろう。

 黒竜が身震いして、鱗が、波打つようにさざめいた。


「この『コーディネート』気に入ってるんだよ?」

 もう一度、ぶるっと身震い。

 すると、黒いメイド服をまとった、十二歳くらいの少女になった。

 ……さっきより少し成長してるわ……


「あらためて初めまして、ボクはこの『巣』の主、黒竜(アーテル・ドラコー)だ。うふふふふふ! 知ってるかもしれないけど、カルナックに『黒曜の杖』を与えたのは、ボクなんだよ。スゴイでしょう?」


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転生幼女アイリスと虹の女神 紺野たくみ @konnotakumi

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