骨抜き
平 遊
骨抜き
自慢じゃないけど、あたしはお魚を食べるのがとても上手だ。それはひとえに、親が厳しく躾けてくれたから。その親でさえ感心するほど、あたしはとてもきれいにお魚を食べることができる。しかも、美味しそうに。
実際、お魚は好きだ。焼き魚も煮魚も、お刺身だって全部好き。
だけど、誰一人気づいている人は居なかった。彼に出会うまでは。
「ねぇ。もしかして魚、そんなに好きじゃなかったりする?」
友達の友達として知り合って、何度か2人で食事に出かけた時だった。
その時食べたのは、焼き魚定食。
そのお店はお魚が美味しいと評判のお店で、特に焼き魚定食がオススメだったから注文した。確かにとても美味しいお魚だったし、あたしはいつも通りきれいにお魚を食べ終えたし、本当に美味しかったから、いつもと変わらず美味しそうに食べていたはず。
にも関わらずそんなことを言う彼に、あたしは驚いて聞き返したの。
「なんで?」
「ん〜、なんとなく? 他のものを食べている時より、少し不機嫌な気がしたから。ごめん、違ったかな?」
それであたし、結婚するならこの人だって、ピンときたの。だって、家族だって友達だって、今まで誰ひとり気づいた人はいなかったのだもの!
実はあたしは、お魚の味は好きだけど、骨を取る作業が面倒で仕方なかったの。面倒、というレベルではなく、嫌い、と言っても差し支えないくらい。子供の頃には何度かノドに小骨が刺さって痛い思いもしたし。だけど、うちは親が厳しくて、「お魚は骨があるから食べたくない」なんて、とても言えなかった。我慢して食べるしか、なかった。そしてなにより、きれいにお魚を食べると褒めてもらえることが、とても嬉しかった。だからいつの間にかきれいに食べられるようになっただけ。
それを彼に正直に伝えると、彼は優しく笑って言った。
「なんだ、そうだったんだ。じゃあ、これからは俺が、キミの食べる魚の骨を全部取ってあげるよ」
彼は、夫となった今でもこの約束を守ってくれている。
外でお魚を食べる時はさすがに自分で食べるけれども、お家で煮魚や焼き魚を食べる時は、あたしの分は全部彼が骨をきれいに取ってくれるの。
「はい、どうぞ」
「ありがとう♪」
彼は本当に、面倒見が良くて優しい。そんな彼にあたしは骨抜きにされてしまっている。
そう言うと、彼はいつも笑って言うの。
「俺はキミの骨抜き担当だからね」
お魚にあんなに面倒な骨なんて無ければいいってずっと思っていたけれど、今では骨に感謝しかない。
だって。
こんな素敵な彼との縁を、骨が接いでくれたのだから。
【終】
骨抜き 平 遊 @taira_yuu
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