『異セカイ文化人類学』番外編〜骨の噂が沈む谷

所クーネル

『五度谷の国』について

 『五度谷ごどだにの国』は稲妻のように無数の谷が大地を切り裂いている。


 創世の『漆黒竜』が不死の山に眠る時、最後に尻尾を叩きつけた跡だという伝説を持つ最大の谷、国の名前にもなった『五度谷』は、隣国『六夜の国』との国境に横たわっている。


 そこに掛かる『明けの大橋』を含め、浮島のような土地を繋ぐ全ての橋は、木や縄で作られた吊り橋だというから驚いた。まだ五度谷の人間と『風の精霊』が仲良くしていたころに、彼らに手伝ってもらって作ったそうだ。


 この大橋が崩落したことで窮地に陥った五度谷の国を、ある男が風の精霊と共に救ったのは、後世語り継がれることになる黄金王の英雄譚の始まりなのだが、これはまた別の機会に書くことにする。


 痩せ型の人が多く、濃い茶色の肌はほとんど黒に近い。赤茶色の髪もかなり濃い色をしている。骨格がしっかりしていて骨張った印象で、大きな赤い目と相まって威圧感があるらしい。


 住居は岩をくり抜いただけのものが基本だ。王の住む城は一際大きな岩山そのもの。浅い谷の壁面を掘って暮らしている人も多い。


 乾燥して強い風の吹き荒れる地上に、人間以外の生き物はほとんどいない。みんな地中に潜ってしまった。だから狩りは主に崖面で行われる。深い谷に命綱一本でぶら下がるのだ。そこに、食料があるから。俺には絶対できない。


 ところで『黄金の国』として統治され、国の境が曖昧になった今、ある噂が大陸全体に広がっている。


「五度谷の底には漆黒竜の骨が落ちている……、そう本気で信じている人々がいるらしいのだよ」


と、フィス先生は呆れた様子で言った。


 漆黒竜はいまも不死の山で眠っているとされているが、死んだと思っている人もいるということなのだろうか。つまり、五度谷に尾を打ち付け、四荒河に血を流して……。


 それって、この世界では不信心じゃないのかな。などと思ったけれど、なにより問題なのは、竜の体の一部は『竜の遺物』と呼ばれるとても危険な存在なのだ。鱗一枚でも大騒ぎなのに、骨だなんて。


 唯一絶対の漆黒竜の強大なエネルギーを宿した遺物。もし本当にあるのだとしたら……。


 不安そうな俺をよそに、先生は涼しい顔をしていた。

 もしかしたら、からかわれただけかもしれない。

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『異セカイ文化人類学』番外編〜骨の噂が沈む谷 所クーネル @kaijari_suigyo

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