ごめんなさい、私は天使。
烏川 ハル
ごめんなさい、私は天使。
昼休みの喧騒で、教室も廊下も賑やかな校舎の中。
向かう先は屋上だが、特にはっきりとした目的や用事があったわけではない。屋上へ出られるドアが開いている確信もなかったけれど、閉まっていた場合は、階段の途中あるいは踊り場あたりで過ごそうと考えていた。
学業の成績は中くらいだが、運動神経は抜群で、色々な部活の助っ人に駆り出されるくらい。特に陸上競技のジャンプ系では驚異的な結果を出してしまい、陸上部の顧問から「ぜひ正式に入部してくれ」と頼まれてもいた。
そんな
しかし
だから時々こうして、無性に一人で過ごしたくなるのだった。
――――――――――――
屋上へと通じるドアは施錠されておらず、重そうに見える鉄の扉は、全く音を立てることなくスーッと開いた。
薄暗かった屋内の階段部分から、一気に視界が開ける。コンクリートが剥き出しの屋上に、開放的な青空が広がっていた。
ここの屋上には、ゴチャゴチャした器具などは設置されていない。ただ端にある手すりが視界に入るだけ……かと思いきや、それだけではなかった。
その手すりに、一人の少女がもたれかかっていたのだ。
「……!」
目を丸くしながら、ハッと息を呑む
彼女は制服姿であり、場所も高校の屋上だ。おそらく
後ろ向きなので顔は見えず、個人を特定するには不十分だが……。
その後ろ姿には、驚くべき特徴があった。
少女の背中には、大きな白い翼が生えていたのだ。
「ようやく見つけた! これこそ僕に相応しい女性だ!」
歓喜の叫びは、心の中で呟いたつもりだった。
しかし喜びのあまり、実際に口から出てしまう。
それを耳にした少女が、ようやく
「えっ、誰!?」
戸惑いの声を上げながら、少女が振り返る。
本当に慌てていたとみえて、背中の翼が手すりに当たり、バサバサと痛そうな音を立てるほどだった。
向き合った二人は、ここでお互いの顔を認識する。
「あっ、
「
白い翼の少女は、
――――――――――――
「……」
相手の呼びかけに対して、口をつぐむ
背中の翼も急いで閉じると、今さら手遅れなのは理解しつつも、両手で顔を隠しながら走り出す。
立ちすくむ
「待ってくれ、
背中に投げかけられた声。
気配でそれがわかったのだろうか。
「今は気が動転してるみたいだから……。今じゃなくて放課後! 今日の放課後、またこの屋上に来てくれないかな? 大事な話があるんだ!」
言い広めたりされたら厄介だし、ここは相手の言葉に従うしかないだろう。
そもそも正体を見られたのは、完全に自分のミスなのだ。誰もいないと思って、誰も来ないと思って、リラックスして翼を広げていたのも軽率ならば、屋上に誰か上がってきたと気づかなかったのも迂闊……。
自分に対する反省の意味も込めて、
「……わかった。今日の放課後ね」
そして再び、走り出すのだった。
――――――――――――
「待っていたよ、
放課後の屋上で向き合う二人。
昼間とは立ち位置が逆だった。
先に来ていた
「
「えっ!? いきなり何を……」
突然の告白に
同じクラスなので、
だから当然、
そんな彼が、なぜ自分に対して……?
「これを見てくれ、
毅然とした声で
ただし、それは一瞬の出来事に過ぎなかった。すぐに霧は晴れたが、その一瞬の間に
ちょうど昼休みの
――――――――――――
しかし全く同じではなく、
学生服から、独特の和装へ。さらに、特徴的なアイテムを手にしていた。
「ああ、そういうことなのね……」
彼が正体を
一般的に、人間に紛れて暮らす人外の者たちは、子供の頃から親に言い含められている。「恋愛相手は人間でなく、同じく人間界に
余計な血は交えずに
おそらく
残念ながら、彼は
だから気持ちを引き締めて、ひとつ大きく深呼吸してから……。
「ごめんなさい、私は天使なの。あなたとは違うから……。本当に、ごめんなさい」
ヤツデの葉みたいな
(「ごめんなさい、私は天使。」完)
ごめんなさい、私は天使。 烏川 ハル @haru_karasugawa
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