第4話 最期のとき

 ねぇ。あの日から、泣いてばかりだよ。

 指先が通るぐらいに開けた窓から感じる風は、もう冬の匂いがする。

 頬を撫でる冷たい空気に、また一つ季節が変わったことを知る。


 これまでにないぐらい小さく、ゆっくりと聞こえる心臓の音は、私に彼と約束した最期が近づいてることを教えてる。

 いつ、迎えに来てくれるの?


「窓、開けてくれてるんだ」


「仕事じゃないと、入らないって言ってたじゃない」


「あぁ。今日は仕事じゃない」


「そうね。寒気、感じないもの」


 あれから何度誰かを助けても、二度と案内人と会うことはなかった。

 それでも、たった一つの約束を信じて、ようやくここまで来たの。


「また俺と、遊びに行く?」


「今度は、私も自分で飛べるかしら」


「いや、次も支えてやるよ」


「私、こんなにおばあちゃんなのよ。あなたの隣は似合わないわ」


「そんなことない。好きな姿にしてもらいに行こうぜ」


 彼が笑いながら、私に最期を迎えさせようとする。


「そうね。せっかく、来てくれたものね」


「あぁ。約束しただろう? 迎えに来たよ」


 彼の青い髪は、冬の灰色の空には混じらない。

 その黒い翼は、相変わらず艶めいて。

 薄い眼鏡の奥の瞳が、眩しそうに私を見つめる。


 私も、その姿をもらいにいこう。

 彼の横に並ぶのに相応しい姿を――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たった一つの約束 光城 朱純 @mizukiaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ