姉に骨を言祝ぐ

ナナシマイ

 わたしの姉には骨がない。

 軟体動物もびっくりの柔軟性を持つ姉は、家のあらゆる隙間に入り込んで掃除をするのが得意だ。昔に流行った、フィギュアスケートの背中をそらすやつが好きで、今でもよく本家以上のしなやかなカーブを見せつけてくる。

 日常生活に支障はない。

 骨がないかわり、中には「大好き」がつまっているのだ。レントゲンには写らない、たくさんの愛情が姉の体を支えている。

 向かいでテーブルにつくその肘だって、そう。

「おねえーちゃん」

「なーに」

「大好き」

 牛乳を飲むように、姉はわたしたち家族からもらった「大好き」の言葉を飲む。

 そしてこう返事をするのだ。

「ありがとー。私も、大好きよ」

 ひとつだけ悲しいのは、姉の「大好き」がわたしの骨にはならないこと。


 姉に結婚を前提として付き合っている人がいると聞いて、とうぜんわたしは姉の骨の心配をした。

 それからすぐ、なんとお相手の男性も姉と同じで骨がない体だと知って、どうっと安堵が湧いた。

 血の繋がった家族としての、これまで姉に骨を詰め込んできたぶんの優越。それがこれからは旦那さんのものに置き換わっていくのだという寂しさはある。けれどもそれ以上に、姉も誰かに骨を与えられるということが喜ばしかった。

「ね……これからも『大好き』って思ってくれるでしょ?」

「もっちろん。おねえちゃん、大好きだよ」

「うれしい。私も、大好き」

 嬉しいな。嬉しい。

 わたしの大好きな気持ちが姉の骨になるこの幸せを、姉も知ることができるなんて。


 純白のドレスを着た、とくべつな日の姉にだって。

 わたしはいつもと変わらない言葉をかけるのだろう。

 そこには多分のおめでとうが含まれていて、きっと姉の返事には、照れたようなありがとうが混じっているはずで。

 最後だからと念入りに隙間を掃除する姉の姿を、わたしはずっと、目で追っていた。

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