料理のリノベーション家電

ちびまるフォイ

シェフにデカい面をしたいだけの人

本日の料理。

コンビニの惣菜を開けたやつ。


その貧相極まりない食卓に危機感を覚えた。


「……1ヶ月後にデートあるのに、これはやばいな」


デートの約束を取り付けた相手は舌が超えている。

箱入り娘で常に一流の食品を口にしていた。


そんな相手にいつもお世話になっている

ファーストなフードのチェーン店に招待しようものなら

側近に射殺されても文句は言えないだろう。


「せっかく彼女と食事を取り付けたんだ。

 かっこいい姿を見せたいな……」


かっこいい自分の姿とはなんだろうか。

食事の席で理想の自分をふと考えてみる。


料理の隠し味を見破って解説したり。

料理の火加減を語ってみたり、ワインの講釈たれてみたり。


そして最後にはシェフを呼んじゃう。


「これだ! なんてかっこいいんだ!!」


一般庶民の自分の自分が、一流の舌を持っていることをアピられる。

きっと彼女もイチコロだろう。


と、ここまでのシミュレーションは良かったが、問題は現状とのギャップ。


食卓に並んでいる美味しいコンビニ惣菜を見てため息が出る。


「これ食っているうちは、舌なんか肥えないかも……」


ご飯食ってベッドで横になって、下半身までウシになりかけたとき

ふとスマホに飛び込んできた広告に目を奪われた。


「り……料理のリノベ家電だって!?」


もちろん購入ボタンを押し、すぐに窓をぶちやぶって家電が届いた。

説明書を読む限り『一度作った料理をリノベする』ということがわかった。


「ちょっと試してみるか」


自分ができる最大の料理「味噌汁(具なし)」を作った。

家電のフタをあけ、お椀ごとお味噌汁をセット。


「スイッチ・オン」


料理のリノベ家電はブーンと音を立てて起動する。

しばらくするとチンと音が鳴ってフタが開く。


中を覗き込んでみると……。


「ば、馬鹿な!? お味噌汁が具だくさんに!?」


ただ味噌をお湯で溶かしただけの汁が、

リノベ家電をくぐらせただけで具だくさんに変化。


「うわ! しかもめっちゃ美味しい!」


そのうえ味噌の濃さもリノベ家庭で調整したようで

味噌汁としての完成度が大きくあがっている。


「よし……これで舌をどんどん料理に慣れさせていくぞ!」


きたるデートに備えて、味覚のトレーニングが始まった。


外食なんて金は無い。

なのでリノベ家電で料理のグレードを引き上げる。


コンビニで買ってきたお惣菜を入れても、リノベーションに成功する。


「すごい……コンビニの唐揚げが、

 こんな鶏肉からこだわりまくった専門店の味になるなんて……!!」


料理リノベーションに不可能はない。

食べ物から飲み物にいたるまで、あらゆる万物をリノベして美味しくする。


どんなにテキトーに作った料理にも隠し味や深みやコクを与え、

最初に出されたら絶対にリノベだとわからないほどのクォリティ。


リノベ料理を口にしていくうちに味覚も鍛えられていった。


「デートまであと数日。これだけ鍛えればきっとカッコつけられるぞ」


すでに脳裏では自分の腕にしなだれかかる彼女のイメージができている。

それもこれも料理の席でどれだけドヤれるかの話だ。


今日も今日とてリノベ料理にせいを出す。


フタをあければ、一流フランス料理店が仕上げたラムチョップができている。


「美味しそう。いただきまぁーー……。いや待てよ」


口に運ぼうとしたとき、ふとリノベ家電に目が止まる。


「今まで1回しかリノベしてなかったけど、

 リノベした料理をさらにリノベしたら、もっと美味しくなるのでは?」


今しがた出来上がった料理をふたたびリノベ家電に放り込む。

スイッチを押して出来上がりを待つ。


チン。


フタを開けると、さらに芳醇な香りが広がった。


「さ、さらに美味しく仕上がっている……!!

 さっきのリノベが頂点じゃなかったのか!!」


素晴らしい発見だった。

リノベ料理をさらにリノベすることで更に引き上げる事ができる。


その後も何回かリノベ繰り返してみたが、

料理によって一定回数以上のリノベをするとそれ以上は変わらなかった。

美味しさの天井なのだろう。


リノベを重ねがけすることで、一流の料理に慣れていた自分も改めて驚かされる。


「こ、これが超一流の味……!!」


さらに自分の味覚は一流へとランクアップした。



ついに迎えたデート当日。


場所はなかなか予約が取れない超一流店。


「レストランの予約ありがとう」


「いいんだよ。ここは予約困難な店なんだ。

 ムシュラン3つ星を取っていて、食品は地産地消でウンチクウンチク」


「まあなんて詳しいのかしら! 素敵!!」


立ち上がりはいい感じ。

彼女の好感度が瞳孔の大きさで上がっているのがわかる。


指パッチンでウェイターを呼びとめる。


「おい。コースをはじめてくれ」

「かしこまりました」


「Cool~~ ///」


このスマートな所作に彼女もメロ★メロ。

もうこれは勝ちが決まったような勝負。


後はどれだけ自分という大海へ、彼女を深く沈められるかだ。


「1品目は、なにかしらのなんか。地中海オーロラ風です」


小洒落た料理が運ばれると口に運ぶ前に口が動く。


「ほう、これはあれやこれやをポワレして

 それらを隠し味に使っているね、香りでわかるよ」


「まるで貴族階級のような舌の肥え方をしているわ!」


ふたたび指パッチン。


「お客様、いかがしましたか?」


「この料理にあうワインを。ほにゃららの1光年ものなんかどうかな」


「……! お客様、さすがでございます。すぐに用意を」


「すごいわ! 店員さんが驚くようなチョイスを!!」


ついに彼女の好感度があがって瞳がハートの形に変形する。


料理とうんちくを重ねるたびに彼女は恋に落ちていくようだった。

これまで自分より舌のこえた存在がいなかったのだろう。


恋愛というのは憧れや尊敬。

相手に自分にない性質を意識することで始まる。

古事記にもそう書いてあった。


「ああ、美味しかったわ。それにあなた料理にも詳しいのね」


「フッ。たとえ生まれが庶民でも、舌は一流階級なのサ」


「なんてナウいのかしら!!!」


テーブルがなければ彼女はほっぺにチューをしていただろう。

それほどまでにぞっこんだった。


後は最後の決めセリフを言うだけだ。

一番かっこよくてチョベリグなやつを。


最後の指パッチン。


「お客様、なにか?」


「君、今日の料理はとてもすばらしかった」


「光栄でございます」


「あーーごほん」


彼女に聞こえるようにハッキリと聞えよがしに言った。


「シェフを呼んでくれ!!」


きっとこの瞬間、彼女の目に映る自分は後光でも差しているだろう。

それほどまでにかっこいいはずだ。


「……よろしいのですか?」


「ああ。なにをためらう必要が?

 文句なんかないさ。シェフを褒めちぎりたいのだよ」


「……かしこまりました」


頭を垂れるシェフに料理のあれこれ専門的なことを話せば

自分のすごさが彼女に伝わってもう完璧ばっちぐーだろう。



これにて今回のぱーぺきなデートプランは完成する!!!



やがてウェイターが戻ってきた。


「お待たせいたしました」


そして、テーブルにそっと差し出した。



「こちらが、本日のシェフです」



料理リノベ家電が厨房から運ばれてきた。

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