花屋のラジオ
みなと劉
第一章:ラジオの声
第1話:花かご
昭和30年代、東京の下町。商店街の一角にある花屋「花かご」は、古びた木製の看板が目印の小さな店だ。店先には季節の花々が並び、歩く人々の目を楽しませている。この花屋を切り盛りするのは、50代の女性、花村千代。夫を亡くしてから20年近くが経つが、彼女は町の人々に支えられながら、一人で店を守り続けてきた。
店の中では、ラジオから昭和歌謡が流れている。「花かご」と言えばラジオ、というほど、町の人々にはおなじみの光景だ。ラジオは夫が生前に買ったものだったが、今では千代の店の大事な「相棒」となっている。
ある日の夕方、千代は店先の花々を手入れしていた。菊の葉を整え、色鮮やかなチューリップを並べ直す。通りを歩く人々の視線がちらちらと花に向けられるのが、千代にとって何よりの喜びだ。
「千代さん、いつも元気だねぇ。」
隣の八百屋の主人、渡辺が声をかけてきた。
「元気じゃないと、お客さんも来ないでしょ。」
千代は笑顔で返す。実際、毎日店に立つことは千代の生きがいでもあった。
そのとき、ひとりの青年が店に入ってきた。寡黙そうなその男は、千代の花屋には珍しい若い客だった。
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