第21話:花かごの賑わい
千代が花屋「花かご」の扉を開けると、懐かしい花の香りが鼻をくすぐった。森の中で味わった緊張感が嘘のように、心がほぐれていく。
カウンターの横にあるラジオに手を伸ばし、スイッチを入れる。少しガリガリとした雑音の後、穏やかな昭和歌謡が流れ出した。千代は小さく微笑む。このラジオは、母が使っていたものだ。どこか古びているが、それがまた味わい深い。
「さて、今日はどの花を並べましょうか。」
棚に並ぶ色とりどりの花を見ながら、千代は一つ一つ手に取り、慎重に選んでいく。忙しく手を動かしていると、入口のベルが軽やかに鳴った。
「こんにちは、戻ってきたんですね。」
顔を上げると、青年が立っていた。森から一緒に戻ってきたばかりだというのに、その表情はどこか柔らかく、心なしか楽しげだ。
「ええ、少し落ち着きたくて戻ってきました。青年さんもお花、見に来たんですか?」
「まあ、そんなところです。それと、森の話を誰かに聞かれる前に、少し落ち着いておきたくて。」
千代は頷き、ラジオの音量を少し上げた。歌声が店内を満たし、二人の間の空気を和らげていく。
その時、店のドアが再び開いた。今度は近所の主婦らしい女性が入ってきた。
「あら、千代ちゃん。いいお花がたくさん並んでるわね。今日は何がオススメかしら?」
「こんにちは。今日は新鮮なカーネーションが入ってますよ。」
千代がすすめると、女性は喜んで花を選び始めた。それをきっかけに、次々と客が訪れる。賑わいが増す中、青年も手伝うように店内を行き来し始めた。
「なんだか、この店にいると落ち着きますね。」
青年の言葉に千代は微笑んだ。ラジオの音楽が流れる中、花と人との温かな交流が広がっていった。
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