第18話:森への道

翌朝、薄明の空が広がる中、千代と青年は町外れで落ち合った。青年は地図と古書を手にし、千代は必要最低限の荷物を背負っていた。二人の前には森へと続く小道が延びている。


「これが入口ですね。ここから先はほとんど人が入らない場所です。」


青年の言葉に千代は頷き、改めて深呼吸をした。母の足跡を追うという緊張感と、未知の場所への期待が胸を高鳴らせた。


「気をつけて進みましょう。陽の泉に辿り着くのは簡単じゃないはずですから。」


二人はゆっくりと小道を進み始めた。森の中は想像以上に静かで、木々のざわめきや鳥のさえずりが耳に心地よく響く。やがて足元には苔が広がり、日差しがほとんど届かない薄暗い道へと変わっていった。


「この辺り、地図によると『影の森』と呼ばれている場所ですね。」


青年が呟くように説明した。影の森――その名の通り、木々が密集して影が濃く、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。千代は辺りを見回しながら、母もこの道を歩いたのだろうかと考えた。


ふと、青年が足を止めた。


「…この辺り、少し違和感を感じます。」


「違和感?」


「ええ。空気が少し重いというか、普段とは違う感じがします。」


千代も周囲を注意深く見渡したが、特に何かがいる様子はない。ただ、森の奥深くへ進むほどに、その静けさが異様に感じられるようになってきた。


「ここから先、慎重に進みましょう。何かあればすぐに声をかけてください。」


青年の言葉に頷き、二人はさらに奥へと足を進めた。やがて道が細くなり、岩がごつごつと現れ始めた。


その時、千代は足元に光るものを見つけた。


「…これ、何だろう?」


しゃがみ込んで拾い上げたのは、小さな青い結晶の欠片だった。それは、陽の泉が示す秘密の一端を暗示するかのように、かすかに輝いていた。


「これが手がかりになるかもしれません。」


青年が結晶を見つめながら言った。その光を道標に、二人はさらに森の奥深くへと足を踏み入れていった。


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