第25話:響き始めた可能性

修理技師の手は、まるで花を扱うように慎重だった。工具を使いながら、古びたラジオの内部を一つ一つ確認していく。その横顔に、千代は思わず見入ってしまった。


「このラジオ、いい作りですね。昔のものは壊れやすいけど、直しがいがありますよ。」


そう言いながら、彼は配線を丁寧に辿り、基盤の一部をじっと見つめた。


「ここですね。この線が外れてます。これが原因で音が不安定になっていたんだと思います。」


千代は顔を輝かせた。脱線した配線を見つけた修理技師は、素早く新しい線材を取り出し、慎重に接続を始めた。その様子に、傍で見守っていた青年も感心したように声を漏らす。


「こんな小さな部分が問題を起こしていたんですね。でも、まだ直るってことですよね?」


修理技師は微笑みながら頷いた。


「はい、これならまだ希望があります。ただ…」


彼は言葉を切り、内部の奥に目をやった。


「この部品、だいぶ劣化しています。長く使うには交換が必要ですが、このままでも一時的には動くかもしれません。ただ、完全に直すには部品を探さないといけませんね。」


その言葉に、千代は再び考え込んだ。古い部品を無理に使い続ければ、またいつ壊れるか分からない。しかし、部品を探すとなれば時間がかかるだろう。


「どうしますか?」


修理技師の問いかけに、千代はしばらく黙っていたが、ふと母の声が心に浮かんだ。

「大切なものは、手をかけて守るものよ」

そう思った瞬間、千代は決意を固めた。


「部品を探しましょう。このラジオには、やっぱりちゃんとした音を奏でてもらいたいです。」


その言葉に修理技師は頷き、工具を置いた。

「わかりました。それでは、必要な部品を手配してみます。それまで、丁寧に仮修理をしておきますね。」


こうしてラジオが再び音を奏でる可能性が開けた。千代の胸には、小さな期待が確かに灯っていた。


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