骨を拾いに三千里【骨】
たっきゅん
骨を拾いに三千里
怪力自慢な友人が旅立ってもう何年になるだろうか。彼はドラゴンを倒して名を上げると言い村を出ていった。最初の内は手紙が届いていた。
『韋駄天裸祭りというのに参加したぜ。女性も全裸になると思って参加したのに野郎しかいなかった……残念だったがムキムキの筋肉を競い合えて楽しかったぜ。ヒョロのお前には参加できねーかもしれねーけどよかったら見にこいよ』
何やってんだかと笑いがこみ上げてくる。手紙を読むとアイツの旅の光景が次々と目に浮かんだ。今日はどこどこで魚料理を食べたとか、ビールが上手い穴場の酒場を見つけたとか、人助けをしたとか、冒険というよりは「旅してるだけじゃねーか」と言いたくなるような手紙ばかりだが、それでも危険なモンスターと戦ったという内容のもチラホラとはあった。
「馬の骨を武器にするなんてやっぱりアイツらしいな」
もともと村を出たのはお金がなかったからで、どうせ宵越しの銭は持たないのなら遊びたいというのが彼の性格だった。なので武器を買うためにお金を溜めるといったことはしなかったのだろう。それで武器が買えないから馬の骨で殴るというのは「お前はゴブリンか」とついつい届いた時は口から漏れたものだ。
『10年経って村に戻らなければ骨を拾いに来てくれ』
彼は随分と遠くにいったようだ。ソノヒグマという熊が棲息している辺境の島からこの手紙は届いた。その頃に滞在していた村では餡哭龍ウディゴンが暴れていたらしく、この手紙からついに念願のドラゴン退治に彼は挑もうとしているようだった。
「母さんのことよろしくな」
「うん! いってらっしゃい!」
「ちゃんと戻って来てくれますよね? 危なくなったらすぐに逃げてくださいね」
「ああ。それじゃ行ってくる」
あの時はこの子が産まれたばかりで一緒に行けなかった。けれど子どもも大きくなり、俺は彼の辿ったルートで骨拾いの冒険へと旅に出た。遊んでばかりの手紙が届いていたので楽しい旅になるはずだと思っていたが、歩いて行くには困難なぬかるんだ湿地帯だったり、険しい山道だったり、他のルートが存在しない獣道で向かう町ばかりに彼は行っていたようで楽しいよりも疲れる方が大きかった。
「韋駄天祭りは来週か……せっかくだし見ていくか」
参加できないだろと言われた韋駄天祭りは忠告通りに大人しく見学で楽しむことにした。眼福だった。
「3年前から女性も参加するようになったらしいな。あいつが生きていたら自慢してやろう」
骨を拾いに行くのについそんなことを考えてしまう。死んだという連絡は来ていないのだ。もしかしたらどこかで生きているかもという願いを俺はまだ捨てていないようだ。
それからさらに歩いた。温泉街を満喫し、雪滑りで大はしゃぎ。あいつのやっていない人力飛行機コンテストにも参加して悔し涙も流した。本当に色々な経験をして――先に行った彼は手紙以上に楽しんでいたのだと思った。
「ボーンソルジャーか」
「なんだそれは……」
「お前さんの探している男だよ」
旅先で彼の情報も集めていく。彼は途中からボーンソルジャーと呼ばれる有名な冒険者になっていたらしい。武器も強力なモンスターの骨で出来た剣を使うようになっていたようだ。きっとお金がなくて残った骨をもらってそのまま殴っていたのだろうと推測した。骨の武器は旅を続けるとどんどん材質が代わっていき、有名になるころにはグランドデスフィッシュと呼ばれる魔海域の主の骨を手に入れていたらしい。
「ここが最後の手紙の町か……」
餡哭龍ウディゴンはボーンソルジャーによって討伐されたらしいが最後は食べられて相打ちになったと村には伝わっていた。なお、ウディゴンの死骸はソノヒグマが食べたらしい。巨大なドラゴンのようなものに群がっているクマの群れを村人が目撃していたのだ。
「確かに彼の字だ。それが遺言であるならこれを――その場に落ちていた英雄の武器だ」
「……いや、彼の骨は?」
「あるわけないだろ。竜に食べられて骨まで溶けない人間がいるか?」
村長は雷麒麟という幻の幻獣の骨で作られた剣を渡してきたが彼の骨はすでにこの世から消滅していた。
「まあ、確かに『骨を拾いに来てくれって』という言葉通りなんだが、これしか残っていないのならしょうがないな」
「この村の英雄の武器なんだぞ? そんなこというと渡さんぞ」
多少の問答はあったが武器を譲ってもらった。これであいつからの遺言は果たした。
「ただいまー」
「おかえり。あら、ずいぶんと男らしくなちゃって……今夜は寝かさないでね」
旅をして肉体はかなり搾られ鍛えられたようで故郷の村に戻ったら妻が惚れ直したようだった。
「そういえばお隣に私たちと同じくらいの夫婦が引っ越してきたのよ。明日にでも挨拶に行ってきてね」
こんな辺鄙な村にわざわざ移住してくるなんて物好きなと思いながら挨拶に向かう。
アイツがいた。
「よっ! あ、これ俺の嫁のアンコ」
「お初にお目にかかります。餡黒龍のアンコです。夫が迷惑をおかけしてすみませんでした」
ドラゴン娘と結婚して。
「悪い! 魚食ってたら骨を喉に詰まらせてな。アンコが現れて助けてくれたんだわ」
「死にそうな人間を食べるほど落ちぶれていませんからね。それに魚もいっぱいご馳走になって、世界中の料理を食べに出ようと誘われたらそれはプロポーズみたいなものですよ」
ドラゴンは魚が好物だったらしい……いや、このアンコが特別なだけかもしれないが。それでも偶然が重なりこいつは生きていた。それだけで十分だと思い二人を祝福した。
「で、これが骨だ。間違いないか?」
「おー! これこれ。村長さんにドラゴン退治に行くって言った手前、あの村に戻れなくなって俺たちは死んだことにしたんだわ」
なんとなく察した。というか、振り回されすぎて疲れたが一言だけ彼に言いたかった。
「お前の歩いた道をなぞったがそれなりに楽しかったぞ。韋駄天祭りは派手に揺れて最高だったな」
「おま! そうなのか? 最近はそうなのか!? よし、来年は一緒に行くぞ! アンコ、悪いが留守を頼む」
「新妻置いて人様の見にいくたあいい度胸じゃわれぇ! 燃やしてやるからそこにすわりんせい!」
ドラゴンのお説教が始まった。もう、迫力がそれはそれはドラゴンだった。
骨拾いの旅は終わった。
また落ち着いたら今度は二人で旅に出ようと彼と約束した。
今度はオレも馬の骨を持って冒険しよう。
【骨】が俺の物語も作っているようだったから。
骨を拾いに三千里【骨】 たっきゅん @takkyun
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