32.姉と弟
「いつまでソルと話しているんですか!」
と、ソルがエルヴと話していると、家の中からレピオスが出て来た。
「何か余計な事を言っていないですよね!?」
「言ってない、言ってない! もー、そんな怒んないでよ! ちょっと話してただけじゃない! ね! ソル君!」
「あっ、えっと、はい!」
「ほらあ!!」
そう言ったエルヴをレピオスはギロリと睨んだ後、レピオスはソルの腕を引っ張る。
「ほら、ソルも早く中に入って荷物を置いてください! 塔に行きますよ!」
「えっ、もう!?」
「いいじゃないですか! 別にここに長く行く理由もないですし!」
「レオ」
ソルの腕を引っ張り中に入ろうとするレピオスを、エルヴは呼び止める。
「明日にしなさい」
「別に姉さんには関係が………」
「このメンバーでの用事ってことは、危険なとこに行くんでしょ! そんな状態で行っても皆に迷惑かけるだけ!」
「……」
レピオスは少し拗ねたようにエルヴにそっぽを向き、黙って家の中に再び入っていった。初めて見るレピオスの様子に、ソルは少し動揺する。
けれども、エルヴはそんなレピオスの様子に気にすることも無く、笑顔でソルに話しかける。
「ほら、ソル君も入って入って!」
「えっと、あっ、はい……」
「あんま気にしないで! レオ、家ではいつもあんなんだから!」
そうあっけらかんと言うエルヴに、ソルは目を見開く。どちらかというと、レピオスは常に冷静でクールなイメージがあった。
「そうなんですか……?」
「そうそう! あっ、別に仲悪いわけじゃないよ! 仲悪かったらそもそもレオだってここに立ち寄らないだろうし!」
「確かに……?」
それもそうかとソルは思う。あそこまで姉を見て嫌な顔をしたわりには、ここに来るということ自体には難色を示さなかった。
そうしてソルも、エルヴさんに誘導されるままレピオスの家に入った。
通されたのは、客室のような所だった。そこには、既にセレスとカーラが入って待っていた。レピオスは、自分の部屋に行ったという。
客室には、ベッドが二つとソファー。今までは雑魚寝だったけれども、流石に今回はソファーかレピオスの部屋に寝せてもらうか。そんな事をソルが思った時だった。
セレスがソルをじっと見て口を開いた。
「さっきカーラと寝る場所を決めていたのだけれど、ソルはこっちのベッドね」
「へ? でも二人は?」
「私はソルがいないと寝れないの、ソルも知ってるでしょう? だから一緒のベッド寝たいの」
「えっ!? いや、でも……」
ソルはどうしたら良いのかわからずカーラの方を見た。カーラは、何故か楽しそうな顔で親指を立ててソルを見た。それを見て、絶対にカーラに勘違いされているとソルは頭を抱える。
セレスが好きなタイプは、見返りなく尽くす人だ。だからカーラが思っていることとは違う。
そんな事を思っていると、セレスはソルを上目遣いでソルを見た。
「ソル。駄目、かしら?」
「えっ、あっ、いや、駄目じゃ、ない」
セレスにそう言われてしまえば、思わずソルは頷いてしまった。セレスは、仮にも好きな相手だ。寧ろソルにとっては嬉しい話だった。
「ほんと、嬉しいわ!」
当の本人であるセレスは照れるわけでもなく純粋に喜んでいて、逆に男として見られていないのではないかとソルは思う。だからセレスは、きっと弟と寝る感覚で誘ってきているのだろう。
ソルは、チラリと寝る予定のベッドを見る。いつもと違ってベッドだから、距離は取れない。掛け布団も一枚だ。だから一緒の布団の中に入って寝ることになるのだ。
大丈夫だ。盗賊団のアジトの所で一度経験したじゃないか。セレスに嫌われないように、間違えてでも手を出さないようにしよう。そして、セレスよりも早く起きよう。ソルはそう心の中で決心した。
◆
それから暫くして、ソル達は食事に呼ばれた。食事は薬草を使った温かい家庭料理で、セレスの料理とはまた違った雰囲気で美味しかった。
思わず、どうしてこんな料理で育ってきてレピオスの料理は壊滅的なのかとソルが言えば、エルヴは大笑いした。
「きっと興味無かったのよ! レオったら、何度注意しても本読みながら食事するんだから! 寧ろ普通に食べてる今のレオが新鮮!」
「……昔の話ですから!」
そう言って少しムスッとした顔でレピオスはそっぽを向いた。そんなレピオスが新鮮すぎて、ソルは少し笑った。
けれども、やはりラーレの件で落ち込んでいたのだろう。食事を終えたらすぐに自分の部屋に篭ってしまった。流石に明日の話を少ししておきたくて、ソルはレピオスの部屋へと向かった。
ノックをしても返事は無かった。仕方なく扉を開ければ、レピオスは自分のベッドに寝転がりながら、写真立てをもってそれを見つめていた。ソルが入ってきたことには気付いていなかった。
「レピオス」
呼び掛ければ、レピオスは驚いたように起き上がった。
「……せめてノックしてください」
「したんだけど、小さかったかな。ごめんな」
「……いえ、私も少しぼんやりしていました」
ソルはチラリとレピオスの手元を見た。レピオスが持っていたのは、ラーレさんとの写真だった。
「……何か用ですか?」
レピオスが、いつもより低い声でそう言った。
「いや、明日の話を皆でしたくて」
「ああ、確かにそうですね。そちらの部屋に行きます」
そう言って、レピオスはベッドから立ち上がる。
「なあ」
本当は、ほおっておくべきなのかもしれない。けれども、ラーレの写真を見ていたレピオスを見ると、ソルは何かを言わずにはいられなかった。
「ラーレさんと、ちゃんと話をしなくていいのか?」
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