海と月の泡沫
印川猫奈
月下の海模様
静かな月夜、波音が優しく岸辺を撫でる中、吸血鬼のルシアンは海辺の崖に腰掛けていた。彼の銀髪が月光を浴びて淡く輝き、その琥珀色の瞳はどこか遠い場所を見つめている。
長い年月を一人で過ごしてきたルシアンにとって、夜は吸血鬼が支配する孤独の象徴であった。彼は吸血鬼しかいないこの世界で人間たちを避け、自らの欲望を押し殺す日々を送っていた。だが、この日だけは違った。どこからか透き通るような美しい歌声が聞こえてきたのだ。
その声に引き寄せられるように、ルシアンは崖を降りて砂浜へ向かった。そこで彼が目にしたのは、月明かりに照らされた青い髪の人魚だった。
「誰だ?」
ルシアンの問いかけに、人魚は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。
「私はエリス。あなたは、、、人間ではなさそうね」
「人間ではない。それは君も同じだろう?」
エリスは小さくうなずいたので、思わず自分が吸血鬼だと明かしてしまった。彼女もまた孤独を感じており、夜な夜な歌うことでその寂しさを紛らわせていたのだという。二人は自然と言葉を交わし始め、互いの孤独に共鳴する。
「君の歌は、心に染み渡って綺麗だ」
「あなたの瞳も、とても深い…。まるで夜そのものみたいに美しいわ」
それから二人は、種族の違いを超えて心を通わせるようになった。
エリスは人魚の世界で、人間や地上の者たちと関わることを禁じられていた。しかし、ルシアンとの出会いは彼女の中に新たな感情を芽生えさせていた。夜になると、彼女は再び砂浜に向かい、彼と会う時間を楽しんだ。
____人間じゃないんだからいいでしょう
ある日、エリスの父である海の王が彼女の行動を察知し、激怒した。
「エリス、地上の者と関わることは許されぬ!彼らは我々の敵!!消してもう二度と関わるな!」
エリスは涙ながらに父に訴えたが、その声は届かなかった。彼女は海底の宮殿に閉じ込められ、ルシアンと会うことができなくなってしまった
ルシアンはエリスが突然姿を見せなくなったことに気づき
彼女に何かあったのではないか――そう思い、彼は夜な夜な海辺を訪れた。そして、ある夜、必死な声が海から聞こえてきた
「助けて…私はここにいる…」
その微かな声が聞こえたが、吸血鬼が見ずに触れることはできない、どうにかするためにルシアンは森の近くの魔女を訪ねた。
「人魚を救いたいのなら、お前自身も大きな犠牲を払わねばならぬ。」
一方、エリスもまた、海の底にいる別の魔女に助けを求めていた。彼女はルシアンと再び会うために、自らの声を捨てて人間の足を得る取引をした。しかも 足を得たとしても......彼に愛されなくなれば 泡になってしまうという代償を元に。
エリスが人間の姿となり、海辺に現れたとき、ルシアンは驚きつつも何も聞かずに彼女を受け入れた。二人は短いながらも幸せな時間を過ごし、互いの愛を確認し合った。
しかし、声を失った少女と人間に変わった少年は失わなければ手に入れられないものを手にし、本来持っていたものを失った。
少女は知りもしなかった、たとえ姿が人間に変わったならば 寿命も同じように変化しているということに
ある日、ついにルシアンは、エリスの腕の中で最期の時を迎えた。彼の温もりが消えゆく瞬間、エリスは涙を流しながらその姿を抱きしめた。
「ありがとう、ルシアン…。あなたに会えて、本当に幸せだったわ」
彼が静かに眠りについた後、エリスは再び海に戻る決意をした。
彼がいないのだから愛されることもない。''どうしても 過去形になってしまう''ということは 魔女との契約で自分は泡になってしまう。
そして、波間に消える前に彼との思い出を歌い上げた。その歌声は、彼女の命と共に泡となり、月明かりの下で輝き続けた。
それ以来、海辺には不思議な伝説が残された。月夜の波間に耳を澄ませると、美しい歌声と笑い声が聞こえてくる。それは、人魚と吸血鬼が交わした1つの約束のせいだと森に住むおばあさんは語った。
海と月の泡沫 印川猫奈 @lirnkawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます