勇者様一行の荷物持ちです。この度魔王城にて命の危険に瀕しております。

狐照

どうも、勇者様一行の荷物持ちです。

体力があって逃げ足が速いので、栄えある勇者様一行の荷物持ちとして採用された平民です。

道中色々ありましたが、勇者様一行は最終目的地である魔王城に突入しました。

勿論俺も同行しました。

荷物持ちの俺が居ないと勇者様一行の食料等が無くて困ってしまいますので。

何せ魔王城は大変広い所です、一日二日で攻略は不可能。

戦闘能力の無い俺は足手纏い、かもしれません。

けれど勇者様一行は大変お強いですし、魔法使い様はいつも俺に結界を張ってくれています。

護りのゴブレットも装備させて頂いております。

俺が背負う生活雑貨品が長旅に重要だと、皆様が認識しているからなのです。

だから魔王城でも今まで通り大丈夫、だと思っていたのですが。


この度魔王城にて命の危険に瀕しております。

なんと、勇者様一行が、全滅してしまったのです。

正直勇者様一行は中々の性格の方々でした。

傲慢横暴横柄。

強さと引き換えに優しさというものが欠如した生き物、だと思っていました。

俺は大事な荷物を運ぶ奴、と言う事で被害者になる事はありませんでした。

けれど勇者様一行はまぁ残酷な方々で、立ち寄った村や町で好き放題。

魔物も嬲り殺しが基本。

無害な亜種族も魔物だと持論を展開し、惨殺する始末です。


俺は、すごいお金が稼げるぞ!と採用された事に喜んでいました。

しかも世界を救う勇者様一行の末端に成れるなんて、すごい名誉だ、とも思いました。

蓋を開けたら最悪な日々でした。

何度も逃げ出そうと思いました。

でも勇者様一行は敵と認識したら容赦が無い方々。

荷物運びを放棄した俺は敵と認識され、嬲り殺しされる。

絶対される。

その恐怖で、俺は、魔王城まで荷物運びとして同行する事になってしまったのです。


恐ろしくてたまりませんでした。

魔王城でも殺戮の限りを尽くすに違いないと。

そう思ってました。


なのに勇者様は殺されました。

魔法使い様も。

聖女様も。

騎士様も。

弓術士様も。


皆様。


ころされてしまい。


俺は。





爆走中です。

魔王城内を爆走中です。

何故って?

勇者様一行を殺した魔物に襲われそうになったからです。

人型だったから魔人と呼ぶべきなんだろうけど、今はそんな事言っている場合ではありません。

逃走を。

一生懸命走って逃げます。


死にたくない。

死にたくない。

生きて帰りたいもう帰りたいんだ。

貧乏でもいいからあの町に帰りたい。

親も兄弟も友達も居ないけれど、誰も目の前で殺されない世界に帰りたい。


荷物は捨ててきました。

重いので。

久しぶりに身軽で、体が軽いから足も軽い。

追っ手の気配は消えている。

一端何処かに身を潜めて、魔王城から脱出しよう。

その為には息を整え落ち着て。


「はぁ…はぁ…」


ごく普通の扉、ノブを回し引いたら開いた。

だから飛び込んだ。

扉を背に息を整える。

お貴族様の御屋敷に似た通路と扉だから、なんとなく大丈夫だと思って逃げ込んだ一室。

追いかけて来る声は聞こえない。

大丈夫。

護りのゴブレットは壊れてない。

現在地は、分かる。

踏破したら記録される地図の予備を持たされていた事に、それを自分のポーチに入れていた事に、安堵の息を吐く。


「…落ち着きました?」


「ヒっ」


突然声を掛けられ俺は驚いた。

自分を落ち着かせる事に必死だったから、全然気付かなかった。

部屋に、眼鏡を掛けた男が居た事に。

大きな机には沢山の書類広がってる。

男はそれらを処理していたのであろう、座り心地の良さそうな椅子に座って、ペンを今置いた。

真っ赤な瞳だった。

前髪の生え際両端に、角が二本生えている。

天を真っすぐ貫くような、銀色の鋭い角。

その鋭さがまったく似合わない、優し気な面差しの眼鏡を掛けた男性が立ち上がり近付いて来る。

長身だ。

細身で、お城の文官様が着るような服を着てて。

でも。

こわい。

わかる。

このひとは。


両足が震える。

立っていられなくなる。


「ふむ、こんな所まで走って逃げてきたのですか…珍しい…」


見下ろされる。

こわい。

涙も滲まない。

歯の音が合わない。


「まぁ…たまには、いいでしょう…」


そう言って男が。

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2025年12月28日 12:00

勇者様一行の荷物持ちです。この度魔王城にて命の危険に瀕しております。 狐照 @foxteria

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