ほろ酔い幻想記

卯月

映画の神様ではなかったらしい

千穂ちほ、聞いてよぉ」

「聞いてるよ」

 三連休の中日。大学時代の友人・朋美ともみが、家に泊まりに来た。

 朋美は昨日、火事騒ぎに巻き込まれて映画館に辿り着けなかったり、家でブルーレイを見ようとしたら停電になったりしたせいで、相当鬱憤うっぷんが溜まっていたらしい。チューハイをコップ半分飲んだだけなのに、絡み気味。

「絶対、映画の神様に呪われてるんだ……」

 何回目かの台詞を呟きながら、ローテーブルに突っ伏して寝始めた。

「そんなとこで寝ると風邪ひくよ」

 揺すったが起きそうにないので毛布をかけ、それからトイレに行って、戻ってくる。


 デカい白蛇が、長い舌をチロチロ出して、朋美の飲みかけの酒を舐めていた。

 ――あたしも酔ってるのかな?

 棒立ちで凝視していると、

『え、見えてる!? 何で!?』

 あたしの視線に気づいた白蛇が、驚いて飛び退いた。だいぶ酔ってるな、あたし。


 その後、あたしと白蛇のサシ飲みになった。

「居心地が良さそう、なんて雑な理由で、通りすがりの人に取りいちゃダメでしょうが」

 というか、ほぼあたしの説教だ。

『居心地は良いが、彼女、ぞんび映画なるものが大好きで……』

「ゾンビが怖いからって、火事起こしたり、他人に迷惑かけちゃダメなの! ちゃんと、みんなに謝るのよ! いい?」

『はい……』

 うなだれる白蛇を見たのが、最後の記憶。


 翌朝。

「あー、体痛い……」

 朋美のうめき声で目を覚ます。朋美はテーブルに突っ伏して、あたしはテーブル下の床で丸くなって、寝ていたらしい。

「……ブランケットかけてくれたの、朋美?」

「知らないよ?」

 朋美の前で空になっているコップに、何かを思い出しかける。

「夕べ、すごく変な夢見た気がするわ……」

「あたしも」

 朋美が笑う。「誰かに、『今度おみくじ引いたら大吉にするから!』って言われた」

「するからって何」

「千穂はどんなの?」

「……蛇が、酒飲んでた?」

 まさかね。

 デカい白蛇に説教したなんてのは、夢に違いない。

 きっとそうだ。



〈了〉

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ほろ酔い幻想記 卯月 @auduki

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