薔薇色のひととき

錦木

第1話 薄紅色の乙女

 川の端に一人の女が座っていた。

 少女のようでありながら濡れたように輝く瞳の奥は長年生きてきた歳月が宿っているような重々しさがあった。

 その姿はまさに神秘的。

 花仙という言葉がよく似合う。

 頭には薄紅色の薔薇を模した髪飾りをさしている。

 服もところどころに薔薇が散った模様をしていた。少し派手だが女が着ると上品な印象である。

「こんにちは」

 一人の少年がはにかみながら女に話しかけた。

「こんにちは」

 女も微笑んでそれに応じる。

「あの……」

 少年はもじもじと指を絡ませた。

「今日は仙女様にお尋ねしたいことがあって参りました」

 まあ、と女は微笑む。

「どのような御用かしら。お座りなさいな」

 そう言って自分の隣の野原を示す。

「失礼します」

 かしこまった様子で少年は腰を下ろした。

「これは仙女様にお渡ししたいと思って持ってきました」

 背から包みを下ろす。

 布を開けると女は感嘆の声を漏らした。

「清水で造られたお酒。私お酒には目がありませんの」

 嬉しそうに目を細める。

 少年はほっとした。町のものに聞いてきてから持ってきてよかったと思う。

「それでお話というのは?」

 しとやかに女は尋ねる。

「はい。……自分には好いた相手がいまして」 

 初々しい少年の様子に思わず女は眩しいものを見るように目を細める。

「それで?」

 話を促した。

「はい。できればうまくいくように助言をいただきたいのです。……その、恋路が」

 ふふ、と女は微笑んだ。

「私は占いはしないのだけど。……そうですね」

 女は自分の髪につけた飾りをとった。

 ふわりとそれは花弁が膨らんだように見えた。

「愛の誓いとともにこれを相手に送りなさい」

 少年の頬が紅色に染まった。

「うまくいくでしょうか?」

「それは貴方次第ね」

 つと道の向こう側を指さす。

「お行きなさい。きっと想いが通じ合えば路は開けるわ」

 何度も礼をしながら少年は去って行った。


「あとは当人の想いと運次第ね」

 女はクスクスと愉しげに笑う。

 野に咲いた薄紅の薔薇が祝福するように柔らかく舞った。



 薄紅(ピンク)の薔薇の花言葉→上品、しとやか、愛の誓い



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薔薇色のひととき 錦木 @book2017

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