第14話 静寂の中の灯

 季節は巡り、ユウキが故郷に戻ってから半年が過ぎていた。肌寒い風が山を吹き抜け、紅葉した木々が鮮やかに揺れる中、ユウキは荷物を背負い、祖母サキと並んで家の外に立っていた。


 「ユウキ、本当に行くのかい?」

 サキの声にはどこか寂しさがあったが、それ以上に誇らしさが滲んでいた。


 「うん。今なら、もう一度やり直せる気がするんだ。自分を責めるんじゃなくて、自分を信じて、歩きたい。」


 サキは小さく頷き、ユウキの肩に手を置いた。

 「忘れないでおくれ。都会の喧騒の中でも、この静寂はいつだってあなたの中にある。迷ったときは、自分の灯を見つめればいい。」


 ユウキは目を閉じ、一度深呼吸をした。祖母の言葉が静かに心にしみ渡る。




 故郷のバス停に向かう道を歩きながら、ユウキはふと足を止めた。振り返ると、家の前で小さく手を振るサキの姿が見える。その風景は、どこか懐かしく温かかった。


 心の中に生まれた静寂は、かつての焦りや不安に取って代わり、彼をしっかりと支えていた。都会での苦しみは消え去ったわけではない。それでも、ユウキは今、それを過去として受け入れられる自分になっていた。


 バスに乗り込むと、車窓越しに見える風景がゆっくりと流れていく。その中で、ユウキは心の中で祖母の言葉を反芻する。


 「灯は自分の中にある。」


 その言葉を思い出すたびに、自分の中の小さな光が少しずつ大きくなっていく気がした。




 都会の街並みが近づいてきたころ、ユウキは深呼吸をして自分に言い聞かせた。

 「大丈夫、僕ならやれる。」


 スーツケースを握る手に少し力を込める。その手には以前とは違う感触があった。それは、迷いや不安ではなく、希望と覚悟の重みだった。


 バスが停留所に着き、ユウキが降り立つと、喧騒の中に自分が立っているのを感じた。けれど、今度はその音が以前ほどの圧迫感を持たないことに気づく。




 ビル群を眺めながら、彼は心の中で静かに語りかけた。

 「ありがとう、サキさん。そして、ありがとう、僕自身。」


 自分を責め続けた過去のユウキに感謝し、未来を歩むための一歩を踏み出す決意を新たにする。


 静寂の中で見つけた灯は、ユウキの道を照らし続けていた。どんなに街が騒がしくても、その灯がある限り、彼は前に進める。


 そしてその一歩一歩が、新たな未来への橋を架けていくのだった。

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静寂の中の灯 まさか からだ @panndamann74

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