いとしのリヒテンシュタインさま 5 薔薇色

ミコト楚良

見習い侍従寮

 侍従の朝は早い。雄鶏おんどりの時の声と共に起きると定められている。見習い侍従は侍従の侍従であるから、雄鶏の時の声よりも早く起きなければならない。

 どうやって起きたらよいのか。悩んでいるフォルトゥナに、寮の同室となったカランが言った。

「ぼくの侍従が起こしに来るよ」

 カランは10歳。薄い色の髪と目。素直な物言い。ふとした持ち物もイニシャル入りの別注のようで、よいところのお坊ちゃんだと思っていたが。

「見習い侍従の侍従て何ですか」

 フォルトゥナは笑いたくなってしまった。

「何ですかと言われてもジョンは、ぼくが生まれたときから、ぼくの侍従だからねぇ」

 カランは、ふんわりと笑った。

「だったら、その侍従さんと同室のほうがいいのでは」

 この侍従寮で見習い侍従は、ふたり一部屋で暮らす。

「いや、そこはわきまえようと父が」

 カランの父は、なかなかに謙虚な人だと見受ける。


 今回の見習い侍従の合格者は10名だ。

 食事の時、食堂に勢ぞろいした。席についた侍従見習いのうしろに、おじさんが数人並んでいたが、あれが見習い侍従の侍従だったのかもしれない。

 フォルトゥナは知らなかったが、貴族の長男以外の男子は聖職につくか、軍人になるか、末はどこかの家の婿養子に入るか、大体に三択だった。

 フォルトゥナが見た限り、見習い侍従は図体ずうたいのでかい男子が一人いたが、あとはおおむね、フォルトゥナより、ちびっ子だ。


「父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心とからだを支えるかてとして――」

 見習い侍従の指導にあたる教官が長テーブルの上座に座り、そこそこ長い食前の祈りを捧げた。

 明日からは見習い侍従の持ち回りで、食前と食後の祈りの言葉を捧げると伝えられている。それも侍従修行の一環だ。

 みなで食卓につき、食事がはじまると、見習い侍従それぞれの生まれと育ちの差が歴然とした。

 きょろきょろとまわりを見て、不安げにしているのは田舎から出てきた子にちがいない。カランなど、すました顔でスプーンやフォークのカトラリー一式を器用に操っているし、明らかに給仕されることに慣れていた。

 フォルトゥナの目の前に座った図体ずうたいのでかい男子は、じっとフォルトゥナの一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを見ていた。品定めしているようだった。

 フォルトゥナは給仕された大きめの肉が入ったシチュウに、思わず、つばを飲み込み、一口に、その肉を頬張り、もぐもく咀嚼そしゃくしながら、(おいしいねっ)と、そのラベンダー色の瞳で、図体ずうたいのでかい男子に語りかけた。目を反らされた。

(恥ずかしがりやさんかな?)

 フォルトゥナは、さらに図体ずうたいのでかい男子に向かってほほえんだ。



 さて、夜中の侍従寮の一室では、見習い侍従の指導教官たちが、一日の取りまとめ会議に集まった。


「いかがでしたかな。シナピウス教官」

 指導教官の長が、壮年の教官に問うた。


「今期の子供たちは粒ぞろいかと。最終的に何名が残るかはわかりませんが。ルラントは、侍従になれば王子の警護に圧倒的な力となるでしょう。ペルンシュタインの御子息は、語学能力にずば抜けています。すでに3カ国語をマスターしているとか」


 黒髪の青年が挙手した。

「フォルトゥ・ウィトレア・エストは、いかがでしたか」 


「あれは――」

 壮年の教官の目が少し笑った。

「今期、いちばんの胆力を持つかと。『うまい、うまい』とシチュウのおかわりを要求してました。『こんなにおいしい食事が毎日、いただけるなんて薔薇色バライロです~』と厨房ちゅうぼうの者に話しかけに行っていました」


「職場の潤滑油にはなりそうですな」

 指導教官の長は、うなずいた。






    〈つづく?〉

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