第2話 田中彩子という女
私、田中彩子は現代日本を生きる高校一年生だった。え? なんで過去形? Go to heavenしちゃったからだよ!
生まれは中流家庭の家であり、仕事にがむしゃらで子供なんかほっぽりだしの両親の元で育って、早十六年。そこには本の虫になって友達もいない根暗女が出来上がっておりましたとさ。田舎の平凡な公立高校に通いながら、私は最近SNSで話題沸騰中の異世界ファンタジー小説「Rose Wisard」にドハマりしていた。
Rose Wisardは、魔法やモンスターが存在する世界で薔薇が咲き乱れる国「ベッラ共和国」の王女・ロゼが魔法学園で魔法使いとして大成していき、ちょくちょくイケメンといい感じになっていくという物語。勿論、悪役も存在しており、物語にはベッラ共和国とバチバチな「アスタリスク帝国」っていかつい国が出てくる。
アスタリスク帝国はアスタリスク王が政治を行っているが、実際には彼の末娘・ヴィクトリアが父親を魔法で洗脳して政府を牛耳っていたのだ。ヴィクトリアは魔法学園に入学し、ロゼに対して嫌がらせの限りを尽くす。可哀想な、ロゼ! でもNo problem! 彼女にもちゃあんと味方がいる。
正義のヒーローたち、それはヴィクトリアの五人の異母兄である。彼らはヴィクトリアの画策により王室から追い出され、王位継承権も奪われ、激おこぷんぷん丸の内。しかも異母兄それぞれ仲が悪いという始末であるが、色々あって最後には一致団結してアスタリスク帝国からベッラ共和国とロゼを救ったのだが……。
はい、やっと最終回が読めると思った私。最終章のページを見る前に、刺し殺されましたとさ☆。有り得なくないですか!? 学校からの帰り道、暇だからとRose Wisardの最終章を見ようとスマホをいじっていたら、背中に一撃! 振り返ろうと思ったら腹に一撃! 痛みで起き上がれず、最後に映った光景は腹部に突き刺さった包丁と駆け寄ってくる通行人であった……。
んで、次に目を覚めると、やたら豪華な部屋で?知らないメイドたちに?「ヴィクトリア」って呼ばれる始末。ただのヴィクトリアならまだよかった。中世ヨーロッパの時代に、どこかのヴィクトリアとかいう令嬢に転生してしまったのだと納得できた。しかし恐ろしい事実発覚。
「うっそだろ、おい……」
目覚めた直後、パニックになって、ベッドから飛び出して屋敷中を駆け回ったとき、ふと廊下に設置された金の縁の鏡が目に入った。そこに映っていたのは……。
「ヴィクトリア・アスタリスク!」
毒々しい紫髪、琥珀色の瞳。そして、このきりっとした目つき。間違いない、そこにはRose Wisardの挿絵でみたヴィクトリアがいた。まだ幼い顔立ちだが、完全にヴィクトリアの特徴と一致する。
そうか、私は、「Rose Wisard」の世界に来てしまったのか。しかも悪役・ヴィクトリア王女へと成り代わったのか。そうか、そうか。
私はその場でへたり込んだ。ああ、色々なことがありすぎてクラクラしてきた。「なんで死ななくちゃいけなかったの?」、「 最終章見たかったな」、「転生って本当にあったんだ……」、etc。言いたいことは山ほどあるが、これだけはどうしても言葉に出したい。
私はもう一度顔を上げて、鏡の中のヴィクトリアを見つめ、そして口を開いた。
「いっや、ロリヴィクトリアかわいすぎひん!!?」
「ひ、姫さまぁ!?」
そのとき城の中は、逃げ出した私を追いかけてきたメイドたちの阿鼻叫喚に包まれたのだった。
破滅の王女は拳ではなく愛嬌で戦う 渋谷滄溟 @rererefa
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