破滅の王女は拳ではなく愛嬌で戦う

渋谷滄溟

第1話 破滅の王女、女子高生だった


 命が終わったとき、とても眠かった。それまでは凄く痛かった。痛くて、真っ赤で、怖くて何も考えられなかった。


 でも糸が切れるように、ある瞬間からもう何も感じなくなって、ココアを飲んだ冬の夜みたいな、優しい眠気がやってきて私は目を閉じた。


 あぁ、いま終わるのだ、人生が、私の16年が……


 






 ま、終わらなかったけどね……







 ※


「――ま。ヴィクトリアさま!」

 

 知らない女性の声? あれ、助かった? 誰か病院までCarryしてくれた感じ? そっと目を開ければ、そこには全く以て未知の光景が広がっていた。


 フリルやらリボンやらで装飾された天蓋、やけに質の良い衣のシーツ。首を曲げれば、心配そうなメイド服の女性が数人、私の手を握って見つめていた?


 やべぇ、夢見てんのか? ていうか走馬灯? こんなお貴族な暮らしした記憶ねぇぞ?


 私はぼんやりした頭で、そっと起き上がった。そこで慌ててメイドたちが手を貸してきた。


「姫さま!? ご無理をなさらないでください! あなたは三日間高熱に魘されていたのですから!」


「ヒメ? コウネツ?」


 私はそっと両手で頭を抱えた。それに合わせてメイドたちもあわあわと肩を抱いてくる。私は顔を下げたまま、彼女達に向かって、人差し指を立てた。


「ごめん、あの、一つ、いい?」


「ええ! 何でございましょう?」


 その瞬間、息を吸った。


「どこやねんここぉ!? あなたらだれぇ!? そして私はだれなんやぁ!?」


「姫さまぁ!?」


 なにひっとつ分からない! なに?学校からアホみたいなルンルンスキップで帰ってたら? なんか痴情のもつれもないのに背中刺されて? そんで死んで? 姫って呼ばれて?


 あぁ、田中彩子よ! 私は一体どうなってしまったの!? 何になってしまったの!?











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る