薔薇色

ritsuca

第1話

 思いが通じれば世界は薔薇色に見えるようになる、とは誰が言ったものか。

(うーん……薔薇色? とは?)

 今日も福島は首を捻っている。

 古文の授業で出てきた、後朝の文を送る風習に憧れていたのは何年も昔のこと。あの頃には触れることもできなかった相手は、隣で眠っていた――はずだった。

 誰もいない隣の布団に、すり、と足を滑らせてみれば、いつの間に布団を出ていたのか、布団はとっくに冷たくなっている。ごろりと寝返りをうって時計を探すと、針は6時を指していた。

 しゅんしゅんとやかんが沸く音だけが遠く響くなか、吐いた息がふわりと白く漂って、今日もまた、未練がましく隣の布団に足を突っ込んだまま、福島は丸くなった。まだ早いからと目を瞑ってそのうち、呼吸が深く、間遠になる。

 福島がもぞりとも動かなくなった頃、部屋の障子戸が、す、と静かに開いた。

(また丸まってる)

 そんなに安心するのかね、と首を捻りながら、宮城は閉めた障子戸にもたれかかる。どうしても目覚めてしまう朝、階下で沸かした湯を少し水筒に移してきて、まだ眠る相手を見ながらゆっくりと飲むこの時間が、宮城は実のところ、とても気に入っていた。後朝の雅なぞ馬鹿馬鹿しい、と思っていたし、こんな風に自宅に誰かを迎え入れてどうのこうのなることもなかったので自分にそんな趣味があるとはついぞ知らなかったのだが、これはこれでなかなか、乙なものだった。

(薔薇色、って感覚はわからないけど、まぁ、悪くはない、な)

 く、と水筒を傾けて飲み切ると、音もなく宮城は立ち上がった。す、と開いた障子戸がまた閉まる頃、福島のまつげがふるふると震え出す。

 そうして今日もまた、二人の朝が始まった。

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薔薇色 ritsuca @zx1683

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