第二話 尾行
自分の丈の蒸尾服を来て親から貰ったお金を握り締め扉の取っ手を引く。それと一応火と水と風の魔法が使える紙を一枚ずつ持っていくことにした。
(護身用のアイテムはいくつ持っていても困ることはないからな!)
ギィーと大きな音を立てながら扉は開き始める。
今日は父と母が披露宴の為に商会へ行っているから屋敷を自由に抜け出せる。
言わば休日だ!
何をしようかと熟慮していると、偶然家を出かけるメイドさんの姿が目に入った・・・
メイドさんはいつものメイド服を来ておらず私服でその姿を見た瞬間、俺の俺は大きく反応する。
大変お気に召したようだ
(こんな早くから何を?)
気になった俺はメイドさんの後をつけることにした・・・
普通に歩こうとすると陰部が警告を発している。
俺の村正が、
[普通に歩いてはならない]
と強い痛みと共に俺に訴えかけてきた。
俺は腰を後ろに引き杖をついたお爺さんのような姿勢で尾行を開始する。
メイドさんは謎が多い人物だ。
黒髪で端正な顔立ちをしているのに、いつも無口で仕事をバリバリとこなしていることしか俺は知らない。
あんなに美人なのに彼氏がいない筈ない!
それに七年の間同じ空間にいたのにここまで情報が無いのは不自然だ・・・
意図的に隠しているか俺を避けていることぐらいしか考えられない!
メイドさんが裏で自分の悪口を言っている姿を想像してしまい胸が苦しくなる。
このチャンスを逃すまい!とストーキングへの情熱が炎のごとく滾ってくる。
(メイドさんのことも気になるけど、この街のことも興味があるからなぁ)
そういった理由もあり観光も同時に行うことにした。
後をつけて三十分が経過した頃メイドさんはぴたりと歩みを止めた。
すると、そそくさとネズミのように雑貨屋のような店に入っていった。
看板は酷く汚れているせいで何と書いているのか読むことが出来なくなっている。
外観は酷いもので木造のようだが木が見えないくらいに苔が生い茂っていて、それに所々打ち込まれた釘が外れかかっている。
今にも崩れてしまいそうな建物だ。
この中に入って行ったメイドさんを案じていると雑貨屋(?)の向かいにある服屋が目に入った。
服屋アーサー!とデカデカと看板に刻まれている。
アーサーとは・・・前世を思い出す名前だなぁなどと感傷に浸っていると店に俄然と興味が湧いてきた。
ここに来てから自分で着る服を選べていなかったこともあり俺は吸い込まれるように店の前へとやってくる。
服屋アーサーの扉を開けようとする。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
おや?
いくら引いても押しても扉が開かない。気を取り直して今度は全力で扉を開ける。
両腕に力を込めて腰を落とし両足を開き扉の横の壁に引っ掛ける。
「せーの!」
俺の一世一代渾身の一撃を喰らっても扉はびくともしない。
(あれー??全く開かないんですけど・・・
横についてるインターホンみたいなの押してみようかな。)
もう一度扉を開けようとしていると、
「うるせぇぞ!」
中から怒鳴り声が飛んできた。
その後、コツコツと歩く音が聞こえてくる。
足音が扉の奥でピタリと止むと扉が横に開いた。
目の前には寸詰まりの体の七十くらいの男がいた。 俺と目があった開口一番、チッ!と大きな舌打ちを決めてきた。
爺さんはインターホン(?)を指差しながら
「ここにボタンが付いているのが見えんのか!」
と唾を撒き散らしながら怒鳴ってくる。
(なんだこの爺さん?まあ、完全にこっちが悪いし大目に見るか。)
血の上った頭をゆっくり冷ます。
悪鬼の形相でこちらを睨む爺さんに頭を下げる。
「これは、どうもすみません。
良ければお店に入っても宜しいでしょうか?」
俺の前世で取得した全力の敬語で謝罪をすると爺さんは不機嫌そうな顔のまま店の奥に戻っていく。
取り敢えずは、入って良いと言う意味だろうか?
恐る恐る店の中へと足を進ませる。
(良かった。ひとまずは店に入っても良さそうだ。)
前世の知識に感謝しながら店にズラーと並ぶ服を一つずつ舐め回すように見ていく。
すると途中黒色のシックな革ジャケットが目に止まる。そのジャケットは、襟が長くフードも付いているようだ。
前世では見たことのない造形の服に俺は男心を弾ませる。
こんなに中二病全開な服は中々前世ではお目にかかれない!
世紀の大発見をした俺はすぐに会計を頼みに爺さんの元へ向かう。
夜これを着ながら外出することを想像しながら声を弾ませ値段を聞く。
「これ買いたいんですけどいくらですか?」
「それはデーモンキングの皮で出来ているから金貨500枚じゃ。」
デーモンキング!?
魔物の中でもトップクラスの俊敏性を持つデーモンキングだと?
あいつを倒せる奴がここの近くにいるのだろうか。
それに金貨ご、五百枚だと!?
手持ちは、全く足りてない・・・
渋々、服を元あった場所へと戻しに行く前に爺さんに質問を投げかける。
「デーモンキングは誰が仕留めたか分かりますか?」
魔物の中でも上澄みの者だろう。
将軍級か下手したら元帥級もあり得る・・・
「それは、昨日わっしが捕まえた。
中々すばしっこいから手こずったよ。」
「・・・は?
はぁーーー!?」
爺さんは五月蝿そうに耳を塞ぎながらこちらを睨む。
「す、すみません・・・驚いてしまって。」
「別に構わん。いつも皆同じ反応をする。」
「あのお名前を聞いても?」
お爺さんはポケットから名刺を取り出しそれを渡す。
「トリスタンさんですね。
私も名乗りたいのですがまだ名前がなくて・・・」
「ガキか。わしのことを知らんとは・・・」
なんだか見下されている気がするが気にしたら負けだな。それにしても本当に強いのか?見た目はただの老人にしか見えないが・・・
「失礼ですが種族とランクを教えて頂けますか?」
「はぁ・・・種族はドッペルゲンガー(亜種)。ランクは将軍級最上位。」
トリスタンは自慢げに話す。
将軍級の最上位と言うことは将軍級の中では最強と言うことか。
俺が今ランク無しなのを考えると規格外化け物だ。
(口の聞き方には気をつけよう。)
それとこの人は俺と同じ(亜種)なんだな、少し親近感が湧いてくる。
今の手持ちの金貨ではとても足りない・・・出直すとしよう。
扉の方に体を向け歩き出すと、
「おい!また来いよ!
今度はちゃんと魔物になってからな!」
トリスタンの方を振り返ると顔の相好を崩した姿が瞳の映った・・・
幹部に休みはない!〜自分が作ったゲームを全力で攻略しようと思います〜 魔法をかけられる @underspell
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