【短編】ギャルのおしゃれ指南

羽間慧

ギャルのおしゃれ指南

 ラメ入りセーターとコーデュロイのミニスカート。

 背中が大きく空いたニットワンピース。

 元気すぎるオールインワンには、千鳥格子のキャスケットを添える。

 試着室の鏡に映るあたしは、どれも可愛い。これなら東京に行っても可愛い子に埋もれないはずだ。


「私服が二日間しか駄目なんてつまんなーい! もっと可愛い服着たーい!」


 せっかく満足のいくコーデが完成しても、三泊四日の修学旅行は全部着こなせられない。移動日は制服着用なんてルールがなかったら、思う存分楽しめたのに。


「高校の修学旅行くらい、自由にさせてよね。部屋割りは自分らで決めさせてくれたから、ありがたかったけど」


 溜息をつきながらハンガーに服をかけていく。


菜奈央ななおちゃん、これはどう? 今年の流行カラーがワンポイントに使われていて、菜奈央ちゃんがおしゃれに見えるんじゃないかな?」

「それは脚が見えるから駄目。華美なものと、過度な露出は学校から禁止されてるの」

「太ももまで隠れているじゃない。厳しいわねぇ。お母さんが高校生だったころは、そこまでうるさくなかったのに」


 試着室にまで聞こえた声に、あたしは驚いた。あたしのクラスの委員長が、ママと一緒に修学旅行用の服を選んでいたから。


「お母さん、これでいいよ。グレーのニットなら、家にあるデニムと合わせやすいもの」


 そんな妥協は許せない。あたしは勢いよくカーテンを引く。


「聞き捨てならないと思ったら、委員長じゃん。修学旅行の服を買いに来たの? 困っていたら、あたしに選ばせて」

「さっ、佐藤実菜子みなこさん?」


 クラスだとあまりしゃべったことがなかったけど、フルネームで覚えてくれているのは嬉しい。


「卒アルに写真が載るかもしれないんだよ? ニットにするなら、顔色が華やぐピンクにしよ」

「無理無理! この色は無理! 薔薇色なんてお姫様みたいな色、私には似合いません! 佐藤実菜子さんなら着こなせると思いますけど!」


 そんなことないと思うけどな。鏡の前に委員長を立たせ、服をあてがう。

 うん。いつもより優しく見えるね。委員長ったら、いつも表情硬いんだもん。このくらい明るい色から力をもらった方が、肩の力も抜けるはず。


「委員長の肌、すっごく綺麗だから、派手な色でも馴染んでる。ほんと、羨ましいよ。あたしは肌荒れに悩まされてるから、すっぴんに耐えらんないし」


 委員長はうぐぅと苦しげな声を上げる。


「じゃあ、これにします。もう一着選んでもらってもいいですか? 今着てるダウンジャケットに合うもので」

「おけ! 実菜に任せて!」


 ギャルのおしゃれ指南を真面目に受ける委員長、可愛すぎ!

 にやける頬を引き締めて、次の服を選んであげた。


 ちゃんと委員長が修学旅行をエンジョイできるように、サポートするから心配しないでね。柱に隠れている委員長ママ!

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【短編】ギャルのおしゃれ指南 羽間慧 @hazamakei

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