未来の展望

学生作家志望

あの日のノート

あの日から、僕は変わってしまった。カーテンを閉め切って、自分で暗闇を作って、部屋から出る理由になるものもすべてふさいだ。


親がいる朝の時間。普通に通っていた時の地獄だった朝は今になっても地獄のままだ。


朝の陽が憂鬱を誘い込んだ。スーツをしまっているタンスを開いて、お父さんがため息をついた。僕の部屋のカーテンが開かれるのは1日にその時だけだった。


憂鬱を封じ込めて社会に飛び込む人間が、家に存在して、僕の心が焼け落ちていきそうになる。毎朝カーテンの開く音で起きて、ずっと布団の中にいて、情けない。情けないって、わかってるのに。


お父さんも口にしないだけで、きっと嫌だって思ってるんだ、こんなやつが息子で。


おはようも言えないやつが、息子なんて。



「なあ、今日はどうだ。体起こせそうか?」


布団に隠れたままの息子に優しい声をかけた父親。少しだけでも声は聞けないかと精一杯話してみる。いつのまにかこの時間が日課としてしみこんでいた。


しかし、突然体を起こせるようになるわけでもなく、「おはよう」は今日も聞くことができなかった。



お父さんが部屋のドアを閉じた。会社に行く時間になったんだとわかる。玄関に歩いていく音は耳の近くで確かに聞こえるけど、お父さんの言葉、話し声は壊れたイヤホンみたいに音が安定しなくて聞こえづらかった。


現実逃避ってやつだろう。もっとも、数少ない得意なことの一つでもあるし。


体を起こした後カーテンを閉めて、部屋にある冷たい食パンの端っこを噛んだ。ゴミだらけの部屋に放置されたパンに美味しさなんて感じることはなかった。でもまずいと考えることもなかった。


ゲームもしなければ運動もしない。僕は一日中、学校であった汚い思い出と、自分が汚すこれからを想像して過ごす。だからまずいなんてことを考えない。


学年通信の紙とか進路相談会の紙とか、行事のたびに送られてくる僕だけがいない写真がそうさせているんだ。現実逃避じゃないこれは事実だ。


見たくもないあいつの笑顔を僕はずっと暗闇の中で見ることになるんだ、そんなの耐えられるはずがない。


全部が腐ってる、これからもこれまでも。


「もうやめよう、学校なんて。」


もともと僕はあんなひどい目にあうために学校に入ったわけじゃない。もっと言えば高校なんて行きたくもなかった。でも行かないと、どこも雇ってくれないのが当たり前らしかった。周りがみんな高校に行くからそれしか選択肢がないように感じて、それで。。。



ここまでで未来の展望は途切れていた。


あの日から、引きこもるようになった日から僕は「未来の展望ノート」という名前の日記を書き始めた。


自分が一番得意でいつもしてしまう現実逃避や責任逃れ、不満の爆発の連鎖がノートにびっしりと書かれていた。今読むと笑えるような内容ばかりだけど、あの時はきっと本気で悩んでいたはずだ。


どうしたらいいのかもわからず、孤独のまま考えていた。そんな時間を救ってくれたのがこのノートだった。


毎朝話しかけてくれたお父さんに僕はある日、一言だけ返事ができた。


机にあるノートを見てほしい、とたったそれだけなのに、お父さんはいつもより明るく部屋を出た。見えなかったけどすごい笑顔になっていたと思う。


いつか返事ができたらノートを見せたかったその小さな思いが実ったこと、たったそれだけで僕はお父さんに「おはよう」と先に言えるようになった。


今でもなんでそうなったのかはわからない。3年間悩んできたあの時間が、たった一言で救われてしまったんだ。でも決して無駄だったなんて言わない。


僕にとっては大きな成長のきっかけだったのだから。結果論だけど別にそれでいい。無駄だって決めつけるよりかは、やってよかったを探したほうがよっぽどいい。


「おはよう、お父さん。」


まだまだ寒い冬の朝、お父さんは布団に隠れたままだった。



あの日から、僕は変わってしまった。カーテンを閉め切って、自分で暗闇を作って、部屋から出る理由になるものもすべてふさいだ。


親がいる朝の時間。普通に通っていた時の地獄だった朝は今になっても地獄のままだ。


朝の陽が憂鬱を誘い込んだ。スーツをしまっているタンスを開いて、お父さんがため息をついた。僕の部屋のカーテンが開かれるのは1日にその時だけだった。


憂鬱を封じ込めて社会に飛び込む人間が、家に存在して、僕の心が焼け落ちていきそうになる。毎朝カーテンの開く音で起きて、ずっと布団の中にいて、情けない。情けないって、わかってるのに。


お父さんも口にしないだけで、きっと嫌だって思ってるんだ、こんなやつが息子で。


おはようも言えないやつが、息子なんて。



「なあ、今日はどうだ。体起こせそうか?」


布団に隠れたままの息子に優しい声をかけた父親。少しだけでも声は聞けないかと精一杯話してみる。いつのまにかこの時間が日課としてしみこんでいた。


しかし、突然体を起こせるようになるわけでもなく、「おはよう」は今日も聞くことができなかった。



お父さんが部屋のドアを閉じた。会社に行く時間になったんだとわかる。玄関に歩いていく音は耳の近くで確かに聞こえるけど、お父さんの言葉、話し声は壊れたイヤホンみたいに音が安定しなくて聞こえづらかった。


現実逃避ってやつだろう。もっとも、数少ない得意なことの一つでもあるし。


体を起こした後カーテンを閉めて、部屋にある冷たい食パンの端っこを噛んだ。ゴミだらけの部屋に放置されたパンに美味しさなんて感じることはなかった。でもまずいと考えることもなかった。


ゲームもしなければ運動もしない。僕は一日中、学校であった汚い思い出と、自分が汚すこれからを想像して過ごす。だからまずいなんてことを考えない。


学年通信の紙とか進路相談会の紙とか、行事のたびに送られてくる僕だけがいない写真がそうさせているんだ。現実逃避じゃないこれは事実だ。


見たくもないあいつの笑顔を僕はずっと暗闇の中で見ることになるんだ、そんなの耐えられるはずがない。


全部が腐ってる、これからもこれまでも。


「もうやめよう、学校なんて。」


もともと僕はあんなひどい目にあうために学校に入ったわけじゃない。もっと言えば高校なんて行きたくもなかった。でも行かないと、どこも雇ってくれないのが当たり前らしかった。周りがみんな高校に行くからそれしか選択肢がないように感じて、それで。。。



ここまでで未来の展望は途切れていた。


あの日から、引きこもるようになった日から僕は「未来の展望ノート」という名前の日記を書き始めた。


自分が一番得意でいつもしてしまう現実逃避や責任逃れ、不満の爆発の連鎖がノートにびっしりと書かれていた。今読むと笑えるような内容ばかりだけど、あの時はきっと本気で悩んでいたはずだ。


どうしたらいいのかもわからず、孤独のまま考えていた。そんな時間を救ってくれたのがこのノートだった。


毎朝話しかけてくれたお父さんに僕はある日、一言だけ返事ができた。


机にあるノートを見てほしい、とたったそれだけなのに、お父さんはいつもより明るく部屋を出た。見えなかったけどすごい笑顔になっていたと思う。


いつか返事ができたらノートを見せたかったその小さな思いが実ったこと、たったそれだけで僕はお父さんに「おはよう」と先に言えるようになった。


今でもなんでそうなったのかはわからない。3年間悩んできたあの時間が、たった一言で救われてしまったんだ。でも決して無駄だったなんて言わない。


僕にとっては大きな成長のきっかけだったのだから。結果論だけど別にそれでいい。無駄だって決めつけるよりかは、やってよかったを探したほうがよっぽどいい。


「おはよう、お父さん。」


まだまだ寒い冬の朝、お父さんは布団に隠れたままだった。



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