薔薇色の勇者

にゃべ♪

戦え! バライロボ!

 ようやく夏の暑さも和らぐ10月下旬、俺は何とか内定をもらう事が出来た。お祈りメールを貰いまくってほとんど死んでいたけど、これでもう不安に潰される事はない。これからは薔薇色の未来が待っているんだ。こんなに嬉しい事はない。

 4月から俺はブルーローズカンパニーの社員だ。様々な業務用マシンを作っている最先端の技術系企業。俺もバンバン開発して世界を騒がせてやるぜ。


「ふっ、夕日がまぶしいぜ……」


 日課の散歩の最中、俺は海に沈み行く夕日に見とれて足を止めた。まるで夕日まで祝福してくれているようで、嬉しい気持ちが込み上げてくる。その時、俺は不意に身体に電撃が走るような刺激を感じた。

 それはほんの一瞬の出来事だったけど、違和感を覚えてすぐに周囲を見渡す。そこで、足元に魔法陣が浮かんでいるのを発見した。


「うわ! 何だこれ?」


 次の瞬間、俺は魔法陣から発生した光に包まれる。これ知ってる、異世界に召喚されるやつだ。アニメとかで見た事ある。

 光は一瞬で消えたものの、お約束通り周囲は知らない景色になっていた。


「どこだここー?!」

「やった! 成功だあ!」


 俺が混乱していると、やけに可愛らしい声が聞こえてきた。その声の方向に顔を向けると、目に飛び込んできたのは手のひらに乗る小鳥くらいの大きさの妖精。背中に小さい羽が生えていて器用にホバリングしている。こいつが俺を召喚したのか?

 妖精は俺が見ている事に気付くと、目を輝かせながら近付いてきた。


「あの、いきなりですけど、この世界を助けてください!」

「本当にいきなりだな。何をしろってんだよ」

「それは、これです!」


 妖精が伸ばした手の先にあったのは、高さが5メートルくらいのずんぐりむっくりしたデザインのロボット。アニメのワタルシリーズに出てくる魔神みたいなやつだ。懐かしいなあ。

 そのロボには真っ赤な薔薇が描かれていて、すごく薔薇色だった。何だこのセンス。


「乗ってください!」

「言うと思った。て事は、これって俺しか動かせないやつか」

「その通りです!」


 この絵に描いたようなベタなテンプレ展開に、俺は頭を抱える。


「このロボって何て言うの?」

「バライロボって言います!」

「いくらなんでもダサすぎだろ……」

「さあさあ乗ってください。こうしている間にも魔王軍がいつ攻めて来るか」


 俺は妖精に背中を押されるものの、流石にその力は弱すぎて全く足は動かない。別にロボを操縦するのは構わないけど、もう少し情報が欲しい。大体の予想はつくとしても。


「お前、色々説明が足りないんじゃないのか?」

「あっ? すみません話を急ぎすぎてました。僕の名前はルルス、妖精です。この国で姫に仕えてる騎士の1人で、占いを担当しています。今、魔族がこの世界を支配しようとしていてボロボロなんです。その戦況を変えるのがこのロボなのですが、誰も動かせなくて。で、動かせる人を召喚したらあなたが現れたんです」

「ほう、よく分かった。このロボは誰が作ったんだ?」

「魔族が侵攻してくる少し前に、素性の分からない博士が売り込みに来たのを買ったんです」


 ルルスいわく、ロボを見た瞬間にこのマシンで世界を救うビジョンが見えたので即決で言い値で買ったのだとか。すごい世界観だな。

 取り敢えず状況が分かったところで、俺はひとつ条件を出す。


「その未来で俺はこの世界を救ってんだよな?」

「はい!」

「じゃあ、救ったらすぐに俺を元の世界に戻してくれ。入社式までには帰りたいんだ」

「分かりました! 方法は分かりませんが努力します!」


 俺を召喚した張本人は、呼ぶ事は出来ても返す手段を知らないらしい。これもまたよくある展開だ。テンプレなら一生戻れないパターンも少なくないため、俺は腕を組んで返事を躊躇する。


「うーん」

「ルルス? 召喚は成功したの?」

「シシル様! はい! バッチリです!」


 俺達の前に現れたのは美しい若い女性。妖精がシシルと呼ぶ彼女は、さっきの話に出てきた姫様なのだろう。年齢は20歳くらいだろうか。身長は160センチくらいで、美しく輝く黄金の髪を肩まで伸ばしていた。白く透き通った肌に青い瞳。黄金比で整えられた顔とスタイル。それはもう生きた芸術作品と言っても過言ではなかった。

 そんな美女のシシルは、必然的に俺の方に顔を向ける。


「あなたがその方なのですね」

「はい。俺は斎藤琢磨。この世界は俺が必ず救ってみせます!」

「まぁ! 琢磨様、頼もしいですわ。どうかご武運を」

「お任せあれ!」


 こんな美しい姫を死なせる訳には行かない。と言う訳で、俺はロボに乗る事にした。まずは名前を呼ぶ事でコクピットに転移出来るらしい。

 俺は息を吸い込むと、早速その名前を口にする。


「バライロボ、真紅!」


 次の瞬間には身体が光に包まれ、俺は操縦席に座っていた。早速出撃だ!


「真紅、行きまーす!」


 操縦方法は、操縦桿を握った瞬間に意識の中に流れ込んでくる。マニュアルいらずだ。これが魔法マシンの性能なのだろう。触ってすぐにテクニックをマスターした俺は、秒で空に向かって飛び出していった。


「飛行出来るロボって最高だな!」


 上空を飛んでみると、魔王軍の姿はまだ見えてはいない。レーダーを確認すると、大陸の外の島に勢力を集結させているのが分かった。叩くなら今しかない。

 俺はロボの最大出力で島に向かって飛んでいく。そのスピードは音速を越えた。


「しかしこれを作った博士はすごいな。オーバーテクノロジーじゃんか」


 1時間ほどで島に着くと、城のような建物と無数のテントが立ち並んでいるのが見えた。そして武装した兵士が数え切れないほど蠢いていて、俺の到着に全員が注目している。このまま何もせずにいたらすぐに迎撃が始まるだろう。

 俺はすぐにこの場面で一番効率的な選択をする。まずは島の中央部に移動して、装備されている武器の中から最大級の破壊兵器を稼働させた。


「薔薇色ボム、投下!」


 ロボから投下されたこの最大火力の破壊兵器は、魔王城上空で臨界点に達して大爆発。凄まじい光熱と爆風で魔王軍を一瞬で壊滅させる。

 更には、爆発によって薔薇の形をしたキノコ雲的なものまで発生する始末。


「威力とんでもなさすぎだろ。何考えてんだこれ作った博士……」


 爆風が収まると、そこにあったのは瓦礫の山。動くものは何ひとつなく、テントも魔王城も見る影もない。取り敢えずこれで任務完了だと島を去ろうとした時、魔王城があった辺りからビームが発射された。

 不意打ちだったために回避が間に合わず、ロボの肩に被弾する。


「まだ生きてるヤツがいる?!」


 幸い、被害は軽度で、装甲が少し溶けた程度だった。俺はすぐにビームが発射された方向に機体を向ける。

 モニターが映した敵の正体は、ロボと同じくらいの大きさの巨人だった。


「あれが魔王?!」


 実際、あの巨人が魔王だと言う確証はどこにもない。しかし、巨人であの爆発にも耐えた存在と言う事実から推測すると、魔王以外の答えが見つからなかった。

 俺はすぐに攻撃対象を目の前の魔王に定め、戦闘を開始する。まずは肉弾戦だ。超高速で接近してパンチを繰り出す。


「薔薇色パンチ!」


 この攻撃はあっさりと避けられた。まぁ動作が大きかったから読まれても仕方がない。俺はすぐに考えを切り替えて次の攻撃に移る。パンチがダメならこれはどうだ。


「薔薇色キック!」


 超高速移動しながらの弾丸のようなキックも、魔王はぬるりと避けてしまう。真紅は地面に激突しかけたものの、すぐに操縦桿を動かして何とか着地に成功。そこで顔を魔王に向けて標準を合わせ、スイッチを押した。


「薔薇色ビーム!」


 真紅の両目から発射されたビームが魔王を狙う。この時、魔王の体が光に包まれて一瞬で姿を消した。そして全く別の座標に出現。転移回避だ。

 俺は、魔王が魔法を使う素振りを何も見せずにそれを成し遂げた事に違和感を覚える。


「お前は本当に魔王なのか?」

「ふふ、俺が魔王だと? こいつはいい!」

「何がおかしい!」

「いいだろう。教えてやる」


 魔王はそう言うとボロボロと体の表面を崩していく。どうやら正体を偽装していたようだ。一体その中身は何なのかと、俺はゴクリとツバを飲み込む。

 巨人に見えていた外装が全て剥がれ落ちた時、姿を現したのは俺の機体と同じバライロボだった。ただし、全体が真っ黒に塗装されている。


「これが俺の機体、バライロボ漆黒だ!」

「まさか、お前も召喚されたのか?」

「な、そう言うお前もまさか日本人?!」


 同じ型式のロボなのでカマをかけたら、マジで相手も日本人が操作しているようだ。敵対する理由はないのかも知れなといと思った俺は、漆黒のパイロットにコンタクトを取る。


「俺は斎藤琢磨。召喚されたばかりだ」

「俺は藤堂茂樹。2ヶ月前に召喚された」


 茂樹の話によると、2ヶ月前に魔界に召喚されたのだとか。魔界に売り込みに来た博士からロボを買ったものの、誰も動かせなくて召喚されたらしい。魔王軍に協力するつもりはなかったものの、衣食住の世話をしてもらったのでロボの操縦をする事になったのだとか。

 ちなみに、本物の魔王は薔薇色ボムで致命傷を受けて、他の魔王軍の兵士達と共に魔界に逃げ帰ったのだとか。


「茂樹、もうこんな戦いは止めよう。俺達はこの世界とは無関係じゃないか」

「じゃあ、俺はこれからどうしたらいい……」


 戦う理由を失った茂樹は精神が崩壊寸前だ。そこで俺は彼に新しい理由を提案する。


「よく考えてみろよ。俺達がこの世界に召喚されたのはロボがあったからだ。で、魔界のロボもこの世界のロボも同じタイプだ。売りつけた博士も同一人物だろう」

「つまり、悪の元凶はその博士?」

「そう言う事。一緒に懲らしめに行こう!」

「その話、乗ったァ!」


 こうして俺達は博士をとっちめる事にする。その居場所は売買契約書にバッチリ記載されていたため、姫に連絡を取るとすぐに判明した。


「この島からそんな遠くない。行こう!」


 俺達が向かった先にあったのは小さな無人島。そこにぽつんとある一軒家が博士の研究所らしい。俺はその場所が視認出来たところで茂樹に合図を送る。


「一緒に叩こう!」

「おうよ!」

「「W薔薇色ビィーム!」」


 2体のバライロボの目から発射れたビームが研究所を狙う。二重螺旋で絡み合いながら目標に向かったビームはしかし、研究所が張ったバリアによって防がれた。


「やっぱり制作者だけあって対策はしてたな」

「琢磨、見ろ!」


 茂樹の言葉に研究所に注目すると、敷地内のプールの水が引いてそこからバライロボが出現する。現れたのは赤でも黒でもない、青い機体だ。


「よくここまで辿り着いたな、パイロット達よ」

「お前、何がしたいんだ!」

「ワシは研究者でな。実験機の暴走でこの世界に飛ばされたんだ。科学の進んだ世界なら興味も湧いたんだが、何だこの遅れた世界は! 文明が遅れていると言うだけでムカつくわ!」

「な、なんだコイツ……」


 博士のイカれた思想に俺も茂樹も閉口する。目の前のマッドサイエンティストはその頭脳を駆使して元の世界に戻ろうとしたものの、全て失敗。そこで新しい計画を立ち上げたのだとか。


「この世界の科学と魔法を組み合わせてな。人間と魔族をぶつけて殺し合いをさせて文明をリセットするんだよ。そのために作ったのがこのバライロボだ。だが欠点があってな。動かすにはワシと同じ日本人でなければならんかった」

「「てめえも日本人だったのかよ!」」

「この世界をリセットして、ワシの理想の世界を作るんじゃああ!」


 俺はこの博士に暴走を止めなければいけないと思い、ロボ越しに茂樹にアイコントクトを取る。どうやら彼も思いは同じだったようで、すぐに行動を開始した。


「「お前の野望をここで止める! W薔薇色ビーム!」」

「なんの! 青薔薇ビーム!」


 3体のバライロボから発射された3つのビームは空中で衝突。この時、様々な条件が重なって大爆発が起こった。俺達はこの爆発に巻き込まれて――。



「あれ? ここは?」


 気がつくと、俺は転移前の歩道に戻っていた。まだ夕日は沈みきっていないので、タイムラグなく同じ時間軸に戻れたらしい。何で戻れたのかは分からないけど、深く考えない事にする。

 こんな話、どうせ誰も信じないだろうし。



 時は流れて入社式の日、俺の隣の席に座った聞き覚えのある声。顔を見るとなんと藤堂茂樹だった。思わぬ場所での再会に俺達は言葉を失う。

 入社式は順調に進み、会長の話の時間になる。この会社の会長は根っからのエンジニアらしい。つい先日も科学の常識を打ち破る画期的な発明をしたのだとか。


「それでは会長に話をしてもらいます!」

「嘘……だろ?」


 俺達の前に現れた会長は――バライロボを作ったマッドサイエンティスト本人だった。これからの俺の社会人生活、本当に薔薇色なのか?

 会長が得意げに自身の経歴や発明品を自慢する中、俺は頭を抱えるばかりだった。



(おしまい)

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