リコ氏と山口君の薔薇色な日々

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「アンタ、中二病のくせして、『薔薇色』も書けないの?」

 現国の授業終了後。リコ氏は、嬉々としてののしってきた。

 授業の最初、簡単な漢字テストがあったのだ。リコ氏とは、隣の席同士。採点の時、紙を交換した。

「違うよ、『薔薇』は書けるんだよ。上下、逆に書いちゃっただけだし」

 よくやるミスである。

「アンタ、『薬屋のひとりごと』知らないの? バラのこと、ソウビって言ってたじゃない」

「ああ~!!」

「うるっさい、山口やまぐち!!」

 他の女子から、怒られる。

「すみません」

 頭を下げておく。

「私、バラなんて一生書ける気しないんだけど」

 リコ氏の友人が嘆いている。

「簡単よ。まず、植物だから、二つ草かんむりね」

「うん」

 真剣に、黒板を見つめる。

「で、上のほうは、土の中に人、人。そして、回。花壇のまわりを人がグルグルしているイメージね。で、下は微妙の微みたいだけど、ここに一本棒が入るのよ」

「へえ~……」

 多分、次の日、彼女は「薔薇」を書けないであろう。遠い目をしている。

「どうせ、これ、お遊びだし。試験に出ないしな」

 ボソッと呟く。そのとおりである。

「何か、でも、マルクス・アウレリウス・アントニヌスとか無駄に覚えたくなるわよね。何した人か、知らないけれど」

「リコさんや、普通はそっちを覚えるんだよ?」

 リコ氏の友人は、哀れな子を見る目をしている。

「私の試験、点数が高いか低いかだから」

 リコ氏は、科目別で学年一位を取りながら、一方で進学校における赤点、つまり六十点を同時に取る女である。

「だよね。リコ氏って、結局、芸術家の血筋なんだなあ」

「うん、うちの若菜わかな姫も、学生時代、嫌いな科目の教師とドンパチしてたって!」

 目をキラキラさせている。ぐっと唾を呑み込む。

「手は出しちゃ駄目だからね?」

「私くらいになると、新卒の教師なんか泣かせられるんだからね!」

「もうヤダ。本当、この子、ジャイアンだわ……」

 リコ氏の友人は、あきれて教室を出て行く。

 これが、リコ氏と僕の薔薇色な日々。何十年も続くといいな。そう願っている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リコ氏と山口君の薔薇色な日々 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ