おとぎ話と賢者の鏡 〜白雪姫Ver.4

丸山 令

おかえりなさい

「助けてっ! 誰か助け……ごぼっだすげっ……」


 森の奥にある沼地で、男が助けを求めて必死にもがいている。


 震える体を互いに抱きしめあいながら、老婆と赤い頭巾を被った孫娘は、呆然とその様子を見ていた。


 二人の後ろでそれを見ていたオイラは、ふんっと鼻を鳴らす。


 いやいや。

 助けるわけないっしょ。


 だって、アイツ。

 つい今し方まで、彼女らを家の中に監禁していた盗賊だかんね?


 男が力尽きて沼に沈んでいくのを確認した後、おいらは二人に厳しい顔を向けた。



「とりあえずは、これで良し。

でもさ、最近この辺 物騒だ。ばぁちゃんは 家の戸は鍵かけなきゃ駄目だし、嬢ちゃんは 知らないおじさんに話しかけられたら 逃げないとダメだぜ?」


「へえ。おかげで助かりましただ。」


「狩人のお兄ちゃん、ありがとうっ」


 顔を涙でぐちゃぐちゃにしながらお礼を言う二人に、おいらは笑顔を向けた。


「それじゃ、おいらはこれで。あ、そうそう。衛兵が来たら、アレは事故死だって言ってな」


 そう言って、おいらは二人に背を向けた。


 よし。これにて任務完了だ。

 これでようやく帰れる。


 ここは、国境付近にある森の中。

 この界隈で、ここのところ 老夫婦や一人暮らしの家を狙った押し込み強盗が多発しているそうだ。

 それがどうも、盗賊の仕業じゃないかってんで、宰相様が調べたところ、隣の国から流れてきた『狼の群』とかいう小規模な盗賊団だってことが分かったらしい。


 で、おいらの出番ってわけだ。

 昔住んでた村の近くだから、この辺はそれなりに土地勘があるし、宰相様から頂いた最新の銃もある。

 その上、おいら、おつむの回転が人よりちょっと良いからさ。

 


 手間のかかる別件の作業を終えて、国境の関所に着いた時、盗賊のアジト探しに協力するよう伝令を受けた。

 で、そこから転身、被害に遭ってる村に到着して ほんの数日で、盗賊団の居場所を突き止めた。これにておいらの仕事は終了で、後は数の暴力で叩き潰して貰えば良い。

 安堵しながら衛兵に連絡に行ったら、山へお使いに行ったきり帰って来てない娘がいるって、ちょっとした騒ぎになっていた。

 そういや あの辺に、一人暮らしのばぁちゃんがいたっけなぁ……と思い当たって、ひとっ走り助けに行ってやったってのが、先ほどの顛末だ。


 あの娘、助けられて良かったな。


 赤い頭巾を被った女の子の泣き笑いが、幼い頃の妹の面影と重なって、おいらはまなじりを下げる。

 

 ふふん。

 これ、また特別報酬出るやつじゃね?

 そしたら、妹にもっと美味いものを食わしてやれるし、綺麗な服も買ってやれる。

 たった一人の大事な妹……心配しているかもしれない。そうだ。早く帰らないと。



 そこからは、乗合馬車を使って丸一日の道のり。

 おいらは王都に帰ってきた。


 いや。ほらさ。

 本当は、すぐにでも家に帰りたいわけよ。

 疲れたしさ。

 可愛い妹の笑顔に癒されたいし。


 でも、仕事だから? 一応。

 行きますけどね。王城。


 城門の中にある騎士の控室で、おいらは狩人風の服装から、騎士の服に着替えた。


 そう。

 何と おいら、なんちゃって騎士。

 正確には、騎士団に所属して諜報活動とかやっている。因みに、平民上がりだから、階級は一番下っ端だ。


 それでも、おいらそこそこ有能だから、こんなところまで入れちゃうんだよな。


「お帰り。相変わらず有能だな。突然仕事を差し込んで悪かった」


 こざっぱりと整えられた執務室の中。

 宰相様は、おいらに向かってニヤリと笑う。

 

「ただいま戻りました。良いですよ?その分、報酬上乗せしてくれるでしょうし?」


 言いながら、おいらは馬車の中でまとめておいた書類と、割れないよう布で包んでおいた小瓶を胸ポケットから取り出して、宰相様の執務机に置いた。


「昨日、『狼の群』の壊滅は確認している。それから、安心したまえ。赤い頭巾の少女も、ちゃんと村にある家に戻ったそうだ」


 そう言う宰相様の横で、裏側まで細工が細かく施された綺麗な鏡が、青白く発光する。

 

 この鏡は、『賢者の鏡』と呼ばれる国の宝で、この国のこと、世界のこと、聞けば何でも教えてくれるらしい。


「そいつぁ良かった。これは報告書。で、こっちは頼まれてた薬でさ。言われた通り、隣国の海まで行って、手配した魚の肝から作りました。

 運良く試す機会があったので使ってみましたけど、少量では致死まで時間がかかりますね」


「結構。これは特別手当だ。とっておきなさい」


 おいらは、差し出された小さな麻袋を、うやうやしく受け取った。

 

「それで、次の仕事だがね」


「うへぇ。もう次の話ですか?」


 おいらが肩をすくめて見せると、宰相様は苦笑い。


「来週からの話だ」


「へぇ。そりゃ良かった」


「……そなたには悪いが、しばらくの間、隣国の城に狩人として潜り込んで貰うぞ」


 あ〜。こりゃ、信頼関係つくったり色々で、滅茶苦茶日数かかるやつだ。

 内心ちょっと嫌な気分になるけど、毎度報酬は良いからな。貧困で捨てられた過去のあるおいらにとっちゃ、金を稼げるだけで有難い。


「無論、手当ては上乗せする。とりあえず、数ヶ月かけて従業員に馴染み、信頼を勝ち得てほしい。それで、毎年秋に催される狩猟祭の補助要員に選ばれれば、最高だ」


「はぁ」


 そこまでは、何とかなりそうだ。


「それから、王妃様と王女様それぞれに、程よい距離感で近づけ」


 おいらは片眉をあげた。

 どういう意味だ? まさか色仕掛け……とか?


「ああ。相手が親しく話かけてくる程度で良い。その後は、状況に合わせて指示を出す。

 それからな、王女シュネービット(白雪)は、若干発達が緩やかだから、妹のように優しく接し、守ってやってくれ」


「わ……かりましたぁ」


 少女を守るのは、おいらの生き甲斐みたいなもんだから、案外、そこそこ楽しい仕事になるかもしれない。



 話を終えて城を辞すると、家へと続く街道で、妹が好きなお菓子など土産の品を買い漁った。

 留守を任せてしまった可愛い妹。 

 お土産を、よろこんでくれると良い。


 家について扉の鍵を開けると、パンを焼く可愛い妹の笑顔が、おいらの目に飛び込んできた。

 ああ。やっと帰ってきた。

 今回も帰って来れた。


「ただいま。グレーテル」


「お帰りなさい。兄さん」

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