第4話 カップラーメン

「さてさて、今日のラインナップは~、『ダンボール箱』『カップラーメン』『のど飴』『うちわ』『蚊取り線香』と。そろそろ夜ご飯時だし、クロの歓迎会も兼ねてカップラーメン一緒に食べよっか。カップラーメンって文字のとこ触ってごらん」


 たしかにそろそろ日も沈みきるような時間だ。言われて思い出したが、今日は朝から緊張して何も食べてなかった。急にお腹減ってきたな。


「わかった」


 言われた通りタブレットのカップラーメンの文字を触る。するとタブレットの表面が切り替わり、カップラーメン シーフード 200MPの文字と、コップのような形の物体の写真が映し出される。コップ型の物体には文字らしきものが書いてあるが俺の知らない言葉のようだ。


「お、メジャーどころのシーフード味じゃん。右側の方の矢印を押して個数を2個にして、それができたら購入ってとこ押してごらん。さっきの雑草パンみたいに急に出てくるから」


「了解。矢印押して2個にして、購入っと」


 するとほんの少し魔力を引き抜かれるような感覚と同時に目の前に写真で見たカップラーメンとやらがふたつ現れそれを受け止める。想像していたよりも軽い容器の周りに薄い膜が張られている。


「これ食べ物にはみえないんだけど、中に食べれる部分が入ってるの?」


「そうそう、異世界の食べ物ってこんな感じに箱とか袋に入って売られてるものが多いんだよ。カップラーメンは外側の膜を剥がして、上のフタを半分ぐらい開けて。ほらこんな感じで」


 ユウカが慣れた手つきでカップラーメンを開封して見せる。それを見様見真似で俺も開封する。開けたフタの中に見えるのは、豆くらいの黄色と茶色の物体。その下にはウネウネしたパスタっぽい物がビッシリ詰まっている。なんか乾いた感じの食べ物だ。


「これは⋯⋯パスタ?の上になんか乗ってる」


「そっか、こっちの世界ってパスタはあるけどラーメンは食べられてないんだっけ。まあ大体パスタみたいなものだよ。上に乗ってるのは卵とお肉」


 言われて中身をもう一度見ても、卵と肉には見えないし味も想像できない。


「うーん、中身を見ても全然味が想像できないな。さっそく食べてみていい?」


「チッチッチ、これは異世界の食べ物だよ?カップラーメンはまだ進化を残してるの。クロはこっからどうすると思う?」


 ユウカは立てた人差し指を左右に振りながら、にやけ顔で聞いてきた。


「進化?うーん。この中でトカゲを育てたらドラゴンになって出てくるとか」


「違う違う食べ物だって!中身が食べ物に進化するの!」


「それで出てきたドラゴンを食べるのかなって」


「絶対愛着湧いて食べれないからねそれ!それにドラゴンってあんまり美味しくないんだよ?」


「えっ⋯⋯美味しくないの」


 しっぽとか翼とか味の想像してたのに。


「まぁ進化って言い方は大げさだったけど、カップラーメンだってちゃんと凄いから。異世界初心者なクロ君に見せてあげましょう。キッチンについてきて」


 キッチンには俺が見たこともない魔導具がいくつもあり、ユウカはその中の一つを指さす。


「これは湯沸かしポットって言って、水を入れてスイッチ押したら自動で沸かしてくれるの、しかも保温機能つき!いつでもアツアツの熱湯を使えるの!」


「これも異世界産?」


「そうだよ。まぁでも、これくらいの機能の魔導具なら探せばこっちの世界にもありそうだけどね、たぶん高級品だろうけど」


 少なくとも俺が居た施設にはお湯を沸かして熱いまま保存できる魔導具なんて無かったし、俺の狭い常識でもそんなことができる魔導具は高価だろうこと想像できる。


「中々やるね、異世界」


「でしょ、中々やるでしょ。それでなんで湯沸かしポットを紹介したかって言うと、カップラーメンの進化に必要なのが熱湯なんだよ」


 ユウカはカップラーメンを湯沸かしポットに近づけ、ポットのスイッチを押す。するとポットの口からは湯気と共に熱湯が流れ出し、半分開けられたフタの隙間からカップラーメンの中へと注がれていく。


「カップの内側の線まで入れたら、フタをして3分待ちます!私はいつも2分くらいで我慢できないで食べちゃうんだけどね。クロもお湯入れてごらん、ここ押したらでてくるから」


 ユウカがやったように、ポットの口に合わせてカップラーメンを構えてスイッチを押す。無事にカップ内側の線まで熱湯を注げたのでフタを閉じる。ポットから出てきたのは確かに熱湯だった。これがあるだけでも料理が楽になりそうだ。


「よし、できた。これで3分待つんだっけ?」


「うん、座って待ってよっか。あ、クロはフォーク使える?」


「フォーク?俺の知ってるフォークと一緒だったら使えるけど」


「じゃあクロはこれね」


 渡されたフォークは俺のよく知るそれとほとんど一緒だった。ユウカと一緒にさっき座っていたイスに座り3分待つ。


「そろそろかな、よし、食べよっか!いただきます!」


 ユウカはフタを剥がして両手のひらを合わし、2本の棒を使って器用にカップラーメンを食べ始めた。


「うん、この慣れ親しんだ味。飽きてるとはいえやっぱり美味しいよねぇ」


「カップラーメンってその棒で食べるものなの?」


「んー、カップラーメンがっていうより、私の地元だとみんなこの棒2本でご飯食べるんだよね。お箸っていう道具なの」


「へぇ、魔界にも色々あるんだなぁ」


 器用に食べるなぁ。全然真似できる気がしない。


「あー⋯⋯、ま、まぁ魔界も広いからね。今度使い方教えてあげるから今日のところはフォークで食べなよ」


「わかった、それじゃあ⋯⋯いただきます」


 フタを開けると、進化を遂げたカップラーメンは激臭を放っていた。こ、これは匂いだけで美味いって確信できるな。


 パスタもどきをフォークですくって口に入れる。


「ッ!!ッッ?!」


 血管が千切れそうなくらい美味い!思わず体が動いてしまうほど美味い!


「んふ、まさに期待してた通りのリアクション。美味しいでしょ?」


「美味い!」


 夢や人生について考えたことがあるだろうか。俺の退屈な人生の中でそういうことを考えた時間は少なくないが、答えなんて全く見えてこなかった。だがたった今気づかされてしまった。俺はコーラを飲んで、カップラーメンを食べるために生まれてきたに違いない。

 食べる前とは違う、一歩先の生物になったと言っていい。カップラーメンによって俺自身が進化させられたんだ。


「ユウカ⋯⋯俺はカップラーメンを食べてドラゴンになるよ⋯⋯」


「うっとり顔で何言ってんの!?カップラーメン食べ続けてもデブか高血圧にしかなれないからね!?」


 ユウカが何か言ってる気がするが頭に入ってこない。汁の1滴も残さず夢中で食べ続けた。


「ごちそうさま」


「なんか様子おかしくなってたけど、どう?美味しかった?」


「美味かった。生涯忘れられない味になった」


「そんなに気に入ったんならよかったよかった。異世界の食べ物ならカップラーメンも含めて色々買い置きあるから、また食べてみよ」


 あれ?ユウカが輝いて見える。輪っかも翼も無いのにまるで天使だ。いや、女神様だ。全く誰だ彼女のことを魔王だなんだと言ったやつは。


「ユウカってすごくいい人なんだね」


「ようやくクロも気づいてきたか私がいい人だってことに。でもまあ食べ物はまた明日以降の楽しみに置いといてさ、クロにはミッションがあります!」


 ミッション?俺に課せられるミッションなんて人殺しぐらいしか思い当たらないが。それとも料理か洗濯だろうか、カップラーメンを食べた後だと俺の料理を出すのは中々気が引けるな⋯⋯。


「クロ、お風呂入ろう?ちょっとくちゃいよ?」


 なんだと⋯⋯⋯⋯

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