第3話 ウルトラハイパースーパーマーケット
ドアをくぐり、履き古されてそうなサンダル一足が置かれた玄関に入る。家の中は、施設はもちろん旅で立ち寄ったいくつかの建物とも雰囲気が違うような気がする。立ち止まってキョロキョロと視線を泳がせていると家主が声をかけてきた。
「我が家は土足厳禁だからね。ここで靴は脱いで上がってね。こんな感じで」
「そうなんだ?わかった」
言われた通り靴を脱ぐ。家主がわざわざ脱いだ靴の向きを変えていたのが気になったので、それに倣って自分の靴も同じ向きで並べる。すると家主はこちらを見て満足そうに笑顔で頷く。
この家主の名前はユウカ。世界中で魔王と恐れられている最強の魔族だ。そして俺はそんな彼女と一緒に暮らすことになったらしい。
「とりあえず何か飲みながら色々説明しよっかな、こっちきて」
そう言うユウカについていくと、通されたのは広めの部屋。中は天井のおそらく魔力式の照明によって明るく、正面には机とその周りに椅子2脚。部屋の色んなところに何に使うのかもわからないような物体がいくつかあったり、奥にはキッチンらしいスペースも見える。
「ここがリビングね、荷物は適当に置いといてそこに座ってて。飲み物とってくるね」
床の隅に旅の荷物を置いて、言われた通り椅子に座る。机も椅子も施設や旅で使ったものより、表面がツルツルしてたり座り心地もよくていい感じだ。
「お待たせ、見たこともないと思うけど絶対おいしいから!だまされたと思って飲んでみて」
ユウカが持ってきてくれたのは、ガラスのコップに入った黒茶色の液体。
「シュワシュワいってるけど、これって酒?」
「ううん、お酒じゃなくて炭酸入ってるだけ。酔ったりしないから安心してグイッといっちゃって」
酒を飲んだことも無ければ、炭酸が入ったものだって飲んだことは無い。正直少し身構えてしまうが、せっかく出してくれたものだ、素直にいただこう。
「それじゃあ、いただきます」
意を決してグイっと煽る。瞬間口の中を刺激が走り抜けて、思わず体が動く。
「!?」
「お、もしかして炭酸も初めてだった?最初はビックリするけど慣れると止まんなくなるよ」
そう言ってユウカはニマニマしながら俺の反応を待っている。炭酸の刺激に慣れてくると別の衝撃がやってきた。
「……甘い!」
「そうそう!コーラって名前の飲み物なの、どう?おいしくない?」
「おいしい!溶かした飴に電流ながしたような味がする!」
「なにその独特な食レポ!?味の感想で電流なんて言葉出てこなくない!?」
『ゴクゴクゴク』
「いや~美味い!もう全部飲んじゃった。コーラだっけ?まだある?」
「急にマイペースだなぁ!?コーラくらいいくらでもあげるけどさ!」
透明な容器に入ったコーラを持って戻ってきたユウカが、俺のコップにまた注いでくれる。こんなに美味しい物は飲んだことがない。これからは水を飲んでも物足りなく感じてしまうんじゃないだろうか。
「それでね、飲みながらでいいから聞いて欲しいんだけどさ」
『ゴクゴクゴクゴク』
「そのコーラは、クロが施設にいたから知らなかったって訳でもなくってね。この世界の何処にも売ってないような物なの。」
『ゴクゴクゴクゴク』
「コーラ以外の物も大体そう。そのコップだったり、部屋に転がってる色んな物だったり、今住んでるこの家そのものだって、全部メイド・イン・異世界なの」
『ゴクゴクゴクゴク』
「なんでそんな物を私が持ってるかって言うとね⋯⋯」
『ゴクゴクゴクゴク』
「飲みながらでいいとは言ったけど飲むのに集中しすぎだから!結構大事な話だから相槌くらいして!?」
そう言われてハッとする。我を忘れて飲み続けてしまった。俺はコーラを飲む為に生まれてきたんじゃなかろうか。
「ごめん、おいしすぎて止まらなくなっちゃって。ごちそうさま」
「そんなに気に入ったんなら全然いいんだけどさ、これからは家に有ったら勝手に飲んでくれていいし。というか今の話聞いてた?」
「聞いてはいたんだけど、いせかいってのがわからなかった」
「異世界っていうのはね⋯⋯、自力で行くことはできないけど、確かに存在はしてる。私達がいる世界とは別の世界のこと⋯⋯かな?」
「⋯⋯本当にあるの?そんなところ」
そんな世界、存在するって言ってしまえば存在する事になってしまわないだろうか。
「まあ信じられないよね。でもコーラだってその異世界産なんだからね」
「じゃあ、誰も行くことはできない異世界の物を、ユウカはどうやって手に入れてるの?」
『ガタッ』
「よくぞ聞いてくれました!私が腕っぷしだけじゃないところをお見せしましょう!」
急に立ち上がったユウカは変なポーズを決めている。きっとこれを聞いて欲しかったんだ。
「わー、ユウカがどうやって異世界の物を手に入れてるか気になるなぁー」
「そうでしょう!とくと見よ!ウルトラハイパースーパーマーケット!」
『ボンッ』
音と同時に、ユウカの手に板状の物体が現れる。
「ふふん!これがこの世界の物だろうと異世界の物だろうと、何だって買えちゃうウルトラハイパースーパーマーケットよ!」
ドヤ顔で胸を張ったユウカが板状の物体をこちらに見せびらかしている。板は人の顔くらいの大きさで、片面が発光していて、そこに文字やら写真やらが映し出されている。見ただけですごい魔道具なのは伝わってくるんだがそんなことより⋯⋯
「その板よりも、5歳児が考えた必殺技みたいな名前の方が気になる」
「名前はしょうがないの!この能力貰う時に適当でもいいから名前つけろって急かされたの!というかカッコいいでしょ!ウルトラハイパースーパーマーケット!略してUHSMだよ!」
顔を赤くしたユウカがめっちゃ早口で弁明してる。でもウルトラハイパースーパーマーケットって名前はカッコよく無いと思う。俺だったら超究極完全無欠商店とか名付ける。
「そうだね、カッコいいね。それでその板でどうやって異世界の物を手に入れるの?」
「あしらわれた!?もう名前は置いといてとにかく説明するから!」
隣に来たユウカが板の光る面を見せてくる。
「この板はタブレットって言ってね、こんな感じで指に反応して操作できるの」
「おぉ〜~」
ユウカがタブレットと呼んだ板の光る面に触れると、指の動きに合わせて板に映った文字や写真が動いている。
「そういえばクロは文字って読める?」
「読めるよ。常設、マンスリー、ウィークリー、デイリー、食料品、衣類、日用品、娯楽⋯⋯、揚げパン110MP、ジャムパン120MP⋯⋯、これで買い物できるってこと?」
「そうそう!これで欲しい物を選ぶと、自分の魔力がお金の代わりに支払われて商品が瞬時に届くの!今はパンのページだから好きなの1個買ってみてごらん」
映ってるパンの中から画面を操作して、『雑草練り込みパン』なるものを購入してみる。
すると体から少しの魔力がスッと抜けた感覚と同時に、目の前に薄緑色のパンが現れて、慌ててキャッチする。
「なんでそんな美味しくなさそうなの選んじゃうの⋯⋯」
「⋯⋯モグモグ⋯⋯うん、美味しくない。こんなパン見たこと無いから異世界のパンなのかなって」
「違う違う、そのパンは私達の世界の何処かで雑草好きな誰かが売ってる商品。マンスリーとウィークリーには私達の世界のちょっと珍しい物が、月替わり週替わりでいくつか並ぶの。そしてデイリーにはなんと!毎日5種類だけ異世界の商品がランダムで買えるの!」
「おぉー!いせかい!」
俺達の世界の様々な商品が魔力と引き換えに一瞬で手に入る上に、商品は選べないが1日5種類だけ異世界の物が手に入るのか。
「フフン!すごいでしょ!早速今日のデイリー商品見てみようよ」
たしかに変なポーズを決めて自慢気に説明してただけのことはある。コーラのような出会いに期待して、デイリーの文字に指を伸ばす。
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