石の形
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
三芳院の遺言
「
両の眼が白く
「心配は御無用に
もう一人の男、稲葉一鉄が平伏したままで言う。一鉄も老人と言って良い年齢ではあるが先の老人とは違い、身体全体にはまだ精気が満ちている。
「遠い昔の話ぞ。それに、儂は何もしておらぬ」
「
「たかが
「
とある事情で長井新九郎、後の斎藤道三にその仲を引き裂かれたのであるが、
「姉だと。まさか
枯れた老人が声を少しだけ
「
「深芳野が
「『仮に万が一、美濃守様が
頼芸の言葉に
「……何だと」
頼芸は
「
「ははっ。我が姉の意を御
「
こうして土岐頼芸は甲斐を離れて、生まれ故郷の美濃に三十年ぶりに帰国する。
美濃国
「深芳野の墓は
「
稲葉一鉄が土岐頼芸の手を引き、寺の片隅のごく小さく目立たぬ墓の前に立つ。
「
「ふむ。おう、届いたぞ。
「
頼芸は深芳野の墓石に
「
「何か御分かり頂けましたか?」
「ああ。一鉄殿、
「よく御分かりで。見えておいでなのですか」
「いや。この目は
「
「うむ。墓石は深芳野が選んだのだな」
「
「
「何か御分かりで」
「ああ。深芳野の伝えんとした事、儂には充分に伝わった。礼を言う。
「
「迷惑ついでだ。
「
「
ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ
駆け足の馬の足音が近づいて来る。
「御隠居様! 一鉄様! 一大事で御座りまする!」
騎乗した馬から飛び降りるとその侍が稲葉一鉄の前で片膝を着いて
「何事じゃ
「
「何だと!
この年の四月、稲葉貞通は信濃国飯山城を守備している際に
「
城からの使い番の侍は頼芸がいるためか、続きを話そうとしない。
「
「ははっ。
本能寺の変であった。このとき稲葉一鉄の嫡子である稲葉貞通は京都にいた。だが明智軍に抵抗することなく大
「何だと!
「構わぬ。儂には山本
頼芸は
「
ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ、ざざざっ
稲葉一鉄も騎乗の人となり使い番の武士と共に去った。
「全く、
「ははっ」
「才ある者、力ある者、皆、死に急ぐ。儂のように無才の者が生き残っても仕方あるまいに。戦国の世はまだまだ続くのう」
「
「国も愛する者も奪われ
「ところで美濃守様、
「
「は? 鷹で御座りまするか?
「とても鷹には見えまい。その昔、儂は
そこで土岐頼芸はくふふと笑う。
「その時の珍妙な鷹とは見えぬ鷹の形に
「美濃守様……」
「さてさて、ちとばかり長生きし過ぎた儂であるが、一鉄殿のお陰で良い
土岐頼芸は数珠を手にかけて合掌し、墓石に向かい
甲斐武田家が滅亡し、また本能寺の変のあった天正十年の十二月四日(1582年12月28日)。元美濃国守護、土岐頼芸は
石の形 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます