異世界転生できなかった結果うんこが漏れ続ける件

そのいきや よしぞう

第1話

 天城蓮は、ごく平凡な大学生だった。目立つこともなく、特技らしい特技もなく、どちらかといえば社会の歯車の一つに過ぎない存在だと自覚していた。そんな彼の密かな楽しみは、ネットで読んでいる異世界転生小説だった。


 「トラックに轢かれたら異世界に行けるなんて、バカバカしいけど、ちょっと羨ましいよな……」


 異世界転生小説――それは、トラックに轢かれたことで異世界に行き、そこでは超人的な力を手に入れて大活躍するという、夢のような物語だ。彼にとって、それは現実の煩わしさを忘れさせてくれる、唯一の心の支えだった。


 ある日、そんな「テンプレート展開」が、彼の目の前で起こりかけた。


 夕暮れの街角、ヘッドホンで音楽を聴きながら歩いていた蓮は、横断歩道に差し掛かったところで耳をつんざくようなブレーキ音を聞いた。反射的に振り返ると、猛スピードのトラックが自分に向かって突っ込んできていた。


 「これが……異世界転生の……!」


 蓮は思わず目を閉じた。しかし、奇跡的に車はギリギリで止まり、彼の身体には傷一つつかなかった。運転手が謝罪する声が聞こえる中、蓮はその場を立ち去った。


 「……いや、普通に生きてる。異世界、行けなかったじゃん……」


 その夜、彼の体に異変が起きた。


 朝起きると布団の上には、茶色い液体が広がっていた。「まさか……食あたり?」と思ったが、違った。その後も数分おきに同じ現象が繰り返されたのだ。トイレでいくら絞り出しても止まらない。「漏らし続ける」というこの状況に、彼は頭を抱えた。


 それからの日々、蓮は病院を転々とし、あらゆる検査を受けた。どの医者も首をかしげ、「身体的には健康そのもの」と断言する。唯一の救いは、臭いも物質も数分で消えるという奇妙な性質だ。しかし、社会生活に支障をきたすのは間違いない。


 大学の授業中、バイト中、デート中――どんな瞬間も容赦なく漏れる。「人間としての尊厳を失った」と思うたび、蓮は拳を握りしめた。


 ネットで「原因不明のうんこ漏れ」で検索するが、見つかるのはネタサイトばかり。それでも諦めずに調べ続けた彼は、深夜の海外フォーラムで「転生失敗症候群」について書かれた匿名の投稿を発見する。


 「転生失敗症候群? なにこれ……」


 投稿には、「異世界転生に失敗した者が、現実世界で呪いを受けることがある」とあり、さらに「呪いを解くには4つの秘宝を集めよ」と続いていた。「知恵」「勇気」「希望」「絆」を象徴するそれらを集め、再び転生の儀式を行えば呪いが解けるという。


 「……これ、俺のことじゃん!?」


 蓮はその瞬間、自分の状況に不思議な納得を覚えた。「異世界には行けなかったけど、これが俺の人生を変えるチャンスかもしれない!」こうして、彼の呪いを解くための壮絶な戦いが幕を開けた。

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