【カクコン10応募作品】帰り道、手のひらをぎゅっと

東雲 SANA(*^^*)

帰り道、手のひらをぎゅっと


 ――季節は冬。


 雪がちらちらと降り積もる中、私は弦音つるねの鳴りひびく弓道場の近くをウロウロしていた。

 寒くてマフラーに顔をうずめながら、弓道場の方を見る。


(まだか……)


 スマホに通知が来てないことを確認して、一度ポケットへ入れようとした瞬間。


 ブルルルッ!


「ぅわッ!」


 つるっと手がすべり、地面にスマホが落ちた。

 やばっ! っとすぐにしゃがんで、壊れていないか見る。


(やってしまった……。画面は――よかった、無事だ)


 ホッと息を吐いて、通知を確認すると――。


 ”部活終わったよ! 今どこにいるの?”


 というメッセージと一緒に、可愛らしい犬が尻尾しっぽを振ってニコニコしているスタンプが送られてきた。


(かわいいなぁ……)


 私は思わずクスッと笑って、しゃがんだままメッセージを打つ。


 ”了解。弓道場前。”


 私が送信ボタンを押してすぐに、”OK!”と返ってきた。

 それが嬉しくて、無意識に口角が上がる。


「――!」


 ……と同時に、肩をぽんっと叩かた。

 私は振り返って、微笑みかける。


「部活お疲れ様、清春きよはる


 清春は私を見て、「ありがと」と照れくさそうに笑い返してくれた。


「ていうか、後ろにいたのバレてたの?」


「気づかなかったけど、こんな事するのは清春くらいだなーと思って」


明日香あすかの驚く顔が見たかったのに~っ!」


 悔しそうに笑う清春に、クスリと笑みがこぼれる。

 そのまま立ち上がって、「じゃあ、行こっか」と二人で帰路へと歩き出す。


「外でずっと待ってたの? 寒くなかった?」


「うーん、別に寒くはなかったけど、手袋持ってくればよかったかな。身体はあったかいのに手がガチガチだよ」


 そう言って、私ははぁ~っと手に息を吐く。

 清春はあからさまに眉を下げたあと、少し顔を赤くして私を見た。


「…………じゃ、じゃあ、手、繋ぐ……?」


 ……え?

 一瞬、思考が停止した。


「っ……ぃや、手が冷たいんなら、手を繋いだほうが温かいんじゃないかな……と思って…………というか、僕が繋ぎたい……です」


 ドキッと胸が跳ねた。

 付き合ってから学校で二人でご飯を食べることはあっても、恋人らしいことはほぼしなかった。


 そう思うと……顔を真っ赤にして私を見る清春が、たまらなく愛しくなる。


 少し恥ずかしく思いつつも、それがバレないように清春の目を見て答える。


「――うん。いいよ」


 微笑みながら言うと、清春はぱぁっと顔を輝かせた。

 そして、そっと手を繋ぐ。


「……あったかいね」


 清春がえへっと嬉しそうに笑った。



 ――この後、ほぼ会話はなかったけど、寒さを忘れてしまうほど……幸せなひとときだった。



   *  *



(side: 清春)


 明日香の家に着いて、しぶしぶ繋いでいた手を離す。


(……もう少し、繋いでたかったなぁ)


 僕は、さびしさを隠すように俯いた。

 だけど「清春」と明日香に名前を呼ばれて、パッと顔を上げる。


「……ん」


 明日香が両手を広げる。

 僕はすぐにその行動の意味がわかって、「え」と動揺どうようした声を漏らした。


「――嫌だった?」


 めずらしく明日香が少し悲しそうな顔をする。

 慌てて「ちがう!」と言う。


「じゃあどうぞ」


 余裕な笑みを浮かべながら両手を広げている明日香。

 僕はなんだか悔しくなって、ぐいっと明日香の腕を引いた。


「っ!?」


 そのままぎゅうっと抱きしめる。

 明日香は驚きながらも、僕の背中に手を回す。



 ……この後こっそり明日香の顔を見たら、顔が耳まで真っ赤になっていた。



 明日香に「見ないで」と軽く叩かれたけど、しっかり意識してもらえてるんだなぁと思うと、すごく幸せな気持ちになった――。



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 ☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!東雲 SANA✿☆

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