VR異世界転生体験館
飯屋クウ
VR体験
俺の名前は
19歳、大学1年だ。
異世界転生ものが大好きで、最近はVRゲームなんかもしている。
毎日ネットを見てる。
よく見るこれは有料会員の情報サイト。
情報を金で買い取る、閲覧するのも別料金がかかるといった、裏サイトだ。
「今日は何かいいネタないかな」
毎日1回はこの裏サイトにアクセスしている。
アルバイト代は本かゲームか、大体これに消費される。
「ん?VR異世界転生体験館?」
こんな面白そうなイベント気にならない者はいない。
調べた住所だと家の近所。
ただ、ここに、そんな館みたいのがあったかというと、あまり覚えていない。
情報料としては1万円も払ったのだ。
これは、もう行くしかない。
今月もマイナスとなったが、気にする必要はない。
これは俺の人生なんだから。
記載された住所には確かに館があった。
黒っぽい壁に苔が付着している。
お化け屋敷と宣伝した方がマシだと思えるくらいだ。
「はっ?入場料もとるのかよ!」
入場料444円。
気味の悪い数字だ。
なんで450円にしなかったのか。
この館の持ち主は頭が悪そうだ。
演出のためか、受付の男は仮面を被っているし、飴も渡される。
「飴程度じゃ腹は膨れないんだよ」
毎月ピンチな俺に節約できるものといえば食事。
どうせなら1個じゃなくて、食べ放題にしてもらいたい。
「おっここは?」
いくつか部屋を抜けた先には映画館のようなものがあった。
VRゴーグルを装着した人達が数人、席へと座っている。
“飴をお食べください”
意図の分からない案内だったが、俺はVRゴーグルを装着したあとに飴を口に入れた。
世界は飛んだ。
飴は覚醒剤の一種だったのではと思うくらい、臨場感ある世界が広がっていた。
足下は浮き、振動し、羽ばたいていく感覚。
異世界に召喚された勇者が仲間を連れて魔王を倒す典型的なストーリー。
『魔王よ、これで最後だ、聖なる
魔王は倒され、エンディングとなった。
想像していた以上に、俺は楽しんだ。
この館は情報料1万円の価値はあったということだ。
ストーリーが更新されたら、また来ようと思う。
俺は館は出た…はずだった。
オカしい。
受付の仮面の男には会っていないし、誰一人ともすれ違っていない。
ここが外であることは間違いない。
しかし、見覚えのない草原。
俺の住んでいる町にはない。
身体を触る。
感覚はある。
手をつねる。
痛みはある。
呼吸も走ることできる。
これは何だ?
何でこんな所にいるんだ?
走った先には村がある。
なんとなく見覚えのある村。
この村にこんなに人がいただろうか。
なぜ俺はこの村人達と同じ服装をしているんだ。
ここは、VRストーリーで魔王に滅ぼされる最初の村だ。
俺の…俺達の服装は殺される村人達の服装と同じだ。
ああ、なんでこんなことになっているんだ。
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『魔王よ、これで最後だ、聖なる
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村人がまた増えている。
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『魔王よ、これで最後だ、聖なる
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村人ABCDEFGHIJKlMNOPQRSTUVWXYZ…
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『魔王よ、これで最後だ、聖なる
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無限ループだ。
誰かもう俺を殺してくれ。
本当の意味で解放してくれ。
頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む。
“新ストーリーが更新されました。今度は魔王が世界を救います。ぜひ館へお越しください。それとこの飴をお食べください”
【完】
VR異世界転生体験館 飯屋クウ @QKuuuuu
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