11人いる……の⁉
猫鰯
11人いる……の⁉
――星間航行船の中で、俺はコールドスリープから目覚めた。
肩を上げ、首を回し、軽くパキパキッと鳴らす。しばらくの間、体には
コントロールルームへ行き日付や記録を見ると、俺が眠ってから15年ほどたったようだ。
その間、自動運転中の船では様々な事が起こったのだと思う。本当に不可解だ。理解が及ばない。度し難い! なぜなら……
「なんで11人いる……の⁉」
何度数え直しても11人だ。おかしい、数が合わない。どう考えても偽物が紛れている。しかしここは宇宙空間を超高速移動している宇宙船の中だ。
つまり、幻覚でないのならその偽物は宇宙人と考えられる。もしそうなら『敵意があるのかないのか』そこが一番重要だ。
……いや、冷静になってみれば、敵意がなければ人間に化けるなんてことはしないだろう。コッソリと本物を殺して入れ替わるつもりなのかもしれない。
でもまあ、問題はもうちょっと違う所にあって、俺は心底まいっている。
「あのさ……どう考えても11人いるじゃん?」
「まあ、そうだな」
「おかしくない?」
「うん、おかしいと思うけど、どうしようもないよね」
そう言われるとその通りだ。確かにどうしようもない。どうしようもないけどどうすればいいんだろ?
――地球を
「なんで11人もいるんだよ。偽物が10人いるってバグってね?」
普通なら搭乗員が10人のはずなのに11人いて、「誰が偽物なんだ?」ってミステリーな話になりそうなのに……
「誰もかれも偽物じゃねえか!」
「俺にそんなこと言われてもな」
「もうちょっと考えて発言しようぜ、俺」
さらに輪をかけて問題なのは、11人もいて偽物がわからない理由。
それは……全員が俺だったからだ。
「なんで俺が11人もいるのか誰か説明キボンヌ!!」
「古くね?」
「そんなのどうでもいいっしょ」
「さっさと偽物見つけて始末しようぜ」
「だなあ。本物の一人決めないと!」
全員俺の顔で俺の声なんだけど、発言内容から性格に微妙なズレが感じられる。
「正直に名乗りでようぜ」
「よし、地球から乗っている俺は挙手!」
「1,2,3……11。全員上げんな。アホか」
「アホって言う人がアホなんですぅ~」
小学生みたいな俺が混ざってるけど、誰が……いや、どれがしゃべっているかすらわからないのが余計混乱する。
「あ~、とりあえずさ。全員にいったん番号振ろうか」
「俺1号」
「俺2号」
「俺、参上!」
「オレオレ!」
収拾がつかねぇ。ふざけすぎだろ俺。真面目にやれよ俺。いい年してなにやってんだよ俺。バカの極みだな、俺。
……やめよう、なんか虚しくなってきた。
なんて思っていたら、どれかわからない俺が提案をした。
「番号がダメなら色でもつけたらいいかと思うのです……はい」
「もう区別がつけばなんでもいいんでさっさと決めようぜ」
「んじゃ、俺レッドね」
「ズルいぞ、レッドは俺だって」
「いや、俺もレッドがいい」
「じゃ、俺レッド1号もらい!」
「てめえ、ふざけんなよ。そしたら俺レッド0号にするわ」
……ったく、結局番号じゃねぇか。
最終的に、レッド5人、ブルー2人、ブラックとホワイトとピンクが1人ずつ。
俺レッドも大概だけど、俺ピンクってなに考えてんだよ。と半ば呆れた時、俺はあることに気が付いた。
「なあ、俺レッドたちさ」
「「「「「なんだよ」」」」」
「なんでレッドを選んだんだ?」
「リーダー色だから?」
「まあ、そんなとこだよな」
「そもそも赤色好きだしな~」
と、まばらに答える彼ら。なるほど、つまりこいつらは……
「俺、赤ってあまり好きじゃないからさ。レッド選んだ5人は偽物っしょ」
その瞬間、俺レッドの5人は、す~~~っと跡形も残らずに消えて行った。どうやらに偽物を当てると消える様だ。
ならば、と次は「ブルーは偽物」と口にした。そして2人消えた。
もうね、『これだ!』と思ったね。わかりやすい、俺が一番好きな色を選んだヤツが本物だ。
「ホワイトとピンクも偽物だ!」
さらに2人が消え、最後に俺ブラックが残った。
俺は赤も青も嫌いじゃない。情熱の赤。海の青。だけどそれ以上に黒が好きなんだ。
なにものにも染まらず、唯我独尊、孤高の存在、唯一無二。それが妙に厨二心に刺さるからなのかもしれない。
「え、と……ブラックの俺が本物でいいのかな?」
「ああ、もちろん。俺は黒が一番好きな色だからな」
「よかった~」
ほっと胸をなでおろす俺ブラック。
よし、これで万事解決……って、あれ、なんかおかしいな。この状況って解決してるよね?
と頭をひねっていたら、俺ブラックがその疑問をアッサリと解決してくれた。
「それじゃあ……」
俺ブラックは腰のホルスターから銃を抜くと、間髪入れずに俺の心臓を撃ち抜いた。
「え……」
胸に空いた穴から溢れる鮮血。
血を吐き、倒れ、薄れゆく意識の中で聞こえて来た俺ブラックの言葉。
「本物は一人だよね」
なるほど、俺ブラックが本物なら、俺が偽物なのは当たり前か。
そんな事を考えながら、俺は真っ黒の闇の中に沈んで行った。
完
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11人いる……の⁉ 猫鰯 @BulletCats
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