ラーメン的に長い一日

らーさん

ラーメン的な謎

 片桐ユウキは、いつも通りの通学路を歩いていた。空は晴れ渡り、風は心地よく、まさに「何事もない一日が待っている」そのように感じた。だが、ほんの数分後、ユウキの予想は完全に外れることになる。


「おっと……!」


 ユウキの前を猫が走り去り、それを避けようとし、見事にバランスを崩し、転んだ。通りすがりの人がこっちを見ては、静かな笑い声がこぼれる。ユウキはすぐに立ち上がり、周りを気にしながらも、「今日は何かがおかしい気がする」と心の中でつぶやく。


 その後、学校に着くと朝礼が始まり、校長先生がいつものように壇上に立ち、生徒たちに向かって話し始める。


「みなさん、おぱゃ、おひゃ、おはおうおはいまふ」


 校長先生が言葉を噛みまっていた。


「今日一日、ラーメンを心がけていきましょう!」


 正直何言ってんのか分からずに朝礼が終わった。いつも内容なんて聞いてないんだけど……


 その後一限が始まると、クラスメートの田村リョウが突然立ち上がった。


「やっぱりラーメンにはケチャップだよな!」


 これだけでも十分おかしいが、さらに続けて熱く語りだした。


「やっぱり、ラーメンはケチャップが無いと始まんないよな!でもそこにチーズも入れるともっといいんだよな!」


 さらにこれに続けて先生も会話に混ざって語る。


「それにソースも混ぜると、もっといいんだぞ!」


 本来は止める立場の先生まで混ざったせいで、止める者は居なくなり、一限はラーメンについてを熱弁し、終わった。


 その後放課後、ユウキは友達の高橋と一緒に帰る途中、「今日、ほんとにおかしいよな……」とぼやきながら歩いていた。学校であんなことが続いたのは初めてだ。


「ラーメンってさ、ほんとにそんな熱く語れるものか?」


 ユウキは笑いながら言った。


「いや、でもリョウの熱量は凄かったよな。あんなに熱く語られると、ラーメンが重要なことかのように思えてきた。」


「でも正直もうラーメンはお腹いっぱいって感じ」

「まだ食べてないのに?」


 そんな他愛のない会話をしている刹那、目の前のカフェから大きな声が聞こえた。


「今日はラーメンスペシャルデー!ラーメン全品500円!トッピング可です!」


 ユウキと高橋は顔を見合わせ、驚いた。今日はまさかラーメンの日だったのか?


 高橋がラーメン食ってくか、とニヤニヤとした表情で聞いてきたが俺は勿論断った。


 その後も帰り道、商店街もラーメンに関する物づくしだった。


「ラーメンからは今日は逃げられないんだな」

 高橋は冗談交じりに言った。


「ほんとにラーメンに縛られてるみたいだな」

 ユウキは呆れたように言う。


 その後何事もなく、高橋と分かれたユウキは無事に家に着く。

 やっと自宅に帰り着いたユウキは、ドアを開けると家の中から香ばしい匂いが漂ってきた。


「あ、ユウキ、今日はラーメンよ!」

 母親の声が聞こえた。


 ユウキはその場で立ち止まり、しばらく無言で固まった。「まじかよ…」と小さく呟くと、深いため息をついて玄関に立ち尽くした。


「まさかの家にまでラーメンが現れるなんて…今日は一体どうなってるんだよ!」

 ユウキは、もう完全にラーメンの呪縛にとらわれた気分だった。


「早く食べないとラーメン伸びちゃうわよ!」

 母親の急かす声が聞こえてくる。


 今日はラーメン朝礼やラーメン熱弁と全てがおかしいように感じる一日だったが、ユウキの心にはただ一つ、確かな事が残った。


「今日は本当に、ラーメンみたいに長い一日だった」

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