酒はある

白川津 中々

 気が付いたら太陽が沈みかけている。


 なぜだろう。俺はまだ何もしていないというのに。

 いや、なにもしていないというのは若干語弊がある。正確には、昨日今日何もしていないという意味である。俺は三日前在宅業務をしていて、一段落ついたから外に出て焼肉食べながらビール飲んで、帰って来てまた仕事をして、終わったと思ったらミスが発覚して修正して、客先から電話があって対応して、むしゃくしゃしてボトルラッパして、そのまま仕事続けて、なんかミスがやたら多いから仕事投げて、それでボトルラッパして、なんか頭回らないからシャワー浴びて、眠くなってきたから外出て焼肉食べながらビール飲んで、〆のラーメン食べて帰って来て、そしたら客先から怒りの鬼電がバンバン社用携帯に掛かってきてて、これはもうそういうもんだと思って謝罪メール送って、ボトルラッパして、なんか誤字がどうの誠意がどうのとかいうメールが客先からきて、上長からメッセージがあって、もうなに書いてあんのか分かんなくて、辞めますって送って、ボトルラッパしてたらなくなって、新しく買いに行こうとして、途中にある居酒屋に入って、常連の連中に「仕事辞めたったわ」と話して、河岸を変えてまた飲み直して、今度こそ新しいボトルを買うために退店したあと昼キャバのキャッチに捕まって、気持ちが良くて、シャンパンを卸すという暴挙を働いて、いっそここのボトルくれと安ウィスキーを定価の三倍で買って、飲みながら帰って寝たらこの時間。なんだよ全然寝てねーじゃんと思ったら三日経過していたというわけである。そして俺はなぜか裸。嘘だろと思った瞬間異臭に気付き周りを見たら寝床が排泄物と吐瀉物が散乱。さながら現代アートのようだ。なにかもう、人として終わってしまったような気がして、とりあえず、いつの間に封を開けたか覚えていない高い安ウィスキーを飲んだ。


「……美味いな」


 アルコール週と夕焼けが沁みる平日。

 仕事も尊厳も失ってしまったが、酒はある。


 素晴らしい人生だ。

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