帰巣本能のままに古巣経由で!

三日月未来

第1話 午後派なので!

帰巣本能のままに古巣経由で!


午後派なので!


 あるがままに生きたい・・・・・・。


「シンちゃん、また寝言を言っていたわよ」

「覚えてないけどーー なんって? 」


「生きたいとか・・・・・・ 」


 進一は恵子の言葉を聞いても今朝の夢を思い出すことが出来なかった。




「ケイ、これから買い物付き合ってくれない」

「なに買うの」


「いいもの」

「ふうーん、いいわーー いつにする」

「午後派なので! 二時がいい」


「いいわ」



 眉目秀麗な進一と花顔柳腰な恵子の朝の会話に窓辺の小鳥たちが囀りで揶揄っていた。

洗顔を終えた二人はキッチンの小さなテーブルでパンとコーヒーで朝食を済ませた。


 恵子は最近流行りのウエブ小説に夢中で携帯を検索している。その影響で進一もウエブに嵌まっている。

元々、進一はアニメオタクでアニメの影響でラノベファンになっていた。


 進一と恵子の同居生活を知る会社の同僚はいなかった。



「シン、この作家の最新話、面白いわよ」

「これ、アニメ化された有名なラノベだよ」


「なるほど、ランキングにあったから開いてみたけど、そうなのね」


 進一は小部屋の書棚からラノベを数冊抱えて恵子の前に置いた。


「これが、その作家のラノベだよ」




 ランチを済ませた二人は外出着に着替えた。二人ともジーンズにジャケットの軽装だ。


 三寒四温の終わり気温は上昇して、通りの染井吉野の枝に桜の蕾が目立つ。

 沿道の角を曲がり銀行前を抜けた二人は庚申通りに入った。商店街は自転車の往来が目立つ。


「庚申通りの庚申って十干十二支だよね」

「六十干支とも言うわ」


「ケイ、詳しそうだね」

「六十日に一度、同じ日が来るの、それは日、月、年もあるわ」


「じゃあ、六十日、六十か月、六十年で元に還るわけ」

「そうなるわね。女の子は昔から占い好きでしょう」


「なるほど」

「四柱推命、奇門遁甲、陰陽に至るまで、六十干支が必要になるのよ」


「最近聞いた、紫微斗数は・・・・・・ 」

「あれは、海外では人気だけど、私には難しいわ」


「ケイでも難しいの」

「四柱推命は六十干支を使うけど、あれは星とか十二宮とかを使うそうね」


「・・・・・・ 」

「干支の代わりに使うそうだけど、素人には難しいわ」




 恵子は言葉を切ったあと進一の反応を見た。

 春風が襟元を擽り恵子のポニーテールの先が進一の頬に当たる。


「ーー でも干支だって覚え切れないよ」

「十干は十日に一度、十二支は十二日に一度よ」


「十二支って十二年で元に還るのじゃあないの」

「十二年、十二か月、十二日よ」


「ーー なんか、ややこしい」


 恵子は進一に携帯のメモを見せて説明した。


「なるほど、算数か」

「だから、月の干支は毎年固定なのよ」


「ということは」

「巡り巡っても一月は丑月なの。だから立春は寅というわけだけど、十干が前につくと六十か月が巡らないと同じ月の立春にはならないのよ」


「六十か月って・・・・・・。 五年じゃあないですか」

「でも五年よ。年なら六十年よ」


「還暦がめでたいわけ、わかったような気がする」


 進一と恵子の占い談義は次第に熱を増して尽きることがなかった。

「ケイちょっと待って銀行で引き出して来るから」


 恵子は純情商店街の中で待っていた。

「ケイ、お待たせ」

「全然平気、ウインドショッピングしてたから」


 電車に乗り隣町の駅改札を抜けた二人は、真新しいエスカレーターを経由して目的地に向かった。

ベージュ色の幅の狭い歩道を進み大きなホームセンターの前に出る。さっきまであった風は消えていた。


「シン、ここ昔シンが住んでいた辺りじゃあない」

「そうなんだ。長く住んでいたせいかーー 気付くと、この辺りをうろうろ」


「それねーー 多分、帰巣本能ね」

「動物じゃあないけど」


「人間は立派な動物よ。そして魂にも帰巣本能があるのよ」

「どういうこと」


「魂の場合は前世で生まれた故郷に戻るそうよ」

「じゃあ、生まれ変わって古巣に帰るわけ」


「多分、そうなるわね」



 進一とケイは店内の買い物カートを引きながら帰り道を模索していた。

「ドアストッパー購入したから帰り道ーー 迷うな」

「それ重くない」


「いや、それほどじゃあないけど」

「じゃあ、帰りは古巣経由ね」


「わかった帰巣本能のままに・・・・・・」




 シンの古巣付近に近くなると霧が出て来た。


「シン、霧のせいか、肌寒いけど」

「春の嵐の前触れかなーー あれ蜃気楼? 」


「シンちゃん引き返そう、あれヤバイっぽいから」

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