「全員を豊かに」と謳う政治家を信じてはいけない理由

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「全員を豊かに」と謳う政治家を信じてはいけない理由

○がいよう


 過去に田中角栄の所得倍増化政策から生まれた『一億総中流化』や

 中国で鄧小平時代から掲げ、習近平も継承している『共同富裕』――社会全体のメンバーが幸福で豊かで美しい物質的・文化的生活を送ること――は


 実現不可能なだけでなく、社会全体にとって害悪


 これが今回の論旨となります。

 やや自由主義寄りで、アンチ共産・社会主義となりますが、骨子としては簡単な思考実験を論拠としています。



○しこうじっけん


 神聖不可侵な国家指導霊である私は、よいアイデアを閃きました!

 それは――


 強制的に全ての国民を結婚させる


 です!

 これで少子化問題は解決されるだけでなく――


 結婚できない一生童貞の哀れな弱者男性も救える!


 そう、つまりは――


 国民総強者男性政策!



○でもね?


 思考実験なので――

「女性の人権を無視している」

「いやいや、世には弱者女性もいる訳で、相互扶助となる」

「そもそも結婚を強制という段階で……」

 などは考慮しません。

 あくまでも分かり易い例としての仮定です。

 しかし――


 男と女の出生比は105:100


 なのは無視しきれません。

 そう! そもそも女性が足りないので、全男性が結婚なんて不可能事なのです!


 強制的に100組の夫婦を作ろうとも、かならず5人の男が余ってしまいます!



○では、どうしたか?


 これを解決可能な愚策はありますし、色々なケースで実施もされてきました。

 それは――


 次の世代から5人の女を奪う


 です。

 だって、そうしなけりゃ全員が結婚できないんだもん!

 ここで誰もが首を捻られるでしょう。

「それで第一世代は良いとして、第二世代はどうするの? さらに多く――10人の女が足りなくなるじゃん?」と。

 でも、御安心! この秘策には続きが! それは――


 次世代は、さらに次の世代から10人の女を奪えば解決です!


 ……もう御察しですね。これを続けていけば――


 20世代目は、同じ世代の女と結婚できなくなり


 さらなる未来に必ずデッドエンドを迎えます


 まあ現代の法律や道徳観だと、100世代目あたりでしょうか?

 女が結婚に甚だしく不適当なまでに低年齢化か、男が女の成長を待ち切れず高齢化します。


 そしてスタート地点が『出生比は105:100』で、次世代から奪うのが5程度は甘い搾取。

 現実では、もっと過酷でした。



○いちれい


 氷河期世代の大学受験は――


 現役合格は三人に一人


 といわれていました。

 なぜなら残りの席は、全て浪人生に占められてしまうから。

 これは要するに『国民総大卒』を目指したからで、足りない分を次世代から奪い続けた結果といえます。

 現役生の席は、前の世代や前の前の世代に奪われ、それをやられた彼らもまた、さらなる前の世代のを。

 つまり、大学ですら、国民全員を通わせるのは無理。

 いわんや経済的成功ともなれば!



○かち、ひきわけ、まけ


 なんであろうと競争すれば勝つ人と負ける人が生まれ、さらにトントンな引き分けの人も。

 ここで経済的な競争結果を――


 勝ち組:中流:負け組=1:1:1


 なモデルケースで考えてみます。

 『一億総中流化』や『共同富裕』は、つまるところ――


 負け組も中流並に引き上げよう


 であり、そもそもリソースが足りません。

 絶対に不可能です。


 ……次世代の分を奪いでもしない限り


 イメージ的に三分の一程足りない訳で、次世代から借りてくれば問題解決。

 次世代は、次々世代から二分の三を。

 次々世代は、次々々世代から一世代分まるまる!


 なぜ日本の30年は喪われたか?


 違います。喪われた訳じゃありません。

 代々で順繰りに、次世代分を食い荒らしてしまっただけです。

 給料は未払いだったのではなく、赤の他人に前借されて!



○いたみをこらえたこうぞうかいかく


 あれは何だったのか?

 いまにしてみれば――


 競争結果への干渉を止める


 でしかなかったでしょう。

 なぜなら、どこかで――


 次世代から自分達の分を奪う


 を止めねばなりません。

 まあ氷河期世代にしてみれば――


 俺達はお前たちから奪って散財したけれど、お前らの代からは禁止


 と裏切られたも同然で――


 数十世代分の搾取結果が、氷河期世代へ集中


 でもあります。

 これは『バブル景気は次世代からの前借』という定説を推し進めたもので、そう見当外れでもありません。



○まけぐみ


 規制緩和というギブアップ――負け組の保護や補填を止め、日本にも格差が生まれてしまいました。

 しかし、ここで勘違いしてはならないと、強く私は思います。


 経済的な敗者――負け組や貧困層が生まれるのは当たり前


 ではないでしょうか?

 なぜなら、すでに説明したように、全員を勝たせようとすれば、より酷く社会は歪むからです。


 ……ほとんどの氷河期世代は、負けたんじゃありません。彼らは勝負の機会すら得れなかったんです。

 それが正しい社会の在り方と思いますか?



○では、どうするべき?


 全員が結婚できる社会ではなく――


 結婚できなくても最低限度の幸福を追求できる社会


 を目指すべきです。

 ここで最低限度としているのは――


 結婚しない方が有利な社会は、いずれ滅亡


 してしまうから。

 社会のメインは結婚する人達です。そこを履き違えたら、文明が滅んでしまいます。

 しかし、独身でも絶望しなくてよい社会は必要です。

 なぜなら誰でも結婚できない――次世代を産めない可能性はあるから。



○けいざいのばあい


 同じ様に負け組や貧困層となっても、最低限度の幸福を追求できる社会が必須と思われます。

 なぜなら――


 誰もが、その競争に参加せねばならず、誰もが、負ける可能性がある


 から。

 文明人なんです。もう命懸けの競争とかよくないですか?

 マスコミは例によって負け組だ貧困層だと囃し立てますが――


 それが生まれるのは摂理


 でしょう。なんら奇妙ではないです。

 努力不足だったのかもしれません。運が悪かったのかもしれません。親ガチャが最悪だったのかもしれません。

 しかし、どんな敗因だろうと――


 経済的競争に負ける=人としての価値なし


 のような論や、それの罷り通る社会が正しいとは思えません。

 そして大切なのは、負けてしまった人を負けなかったことにするのでなく――


 負けたとしても幸福を追求できる社会


 ではないでしょうか?

 いや、もちろん、様々なことを我慢したり諦めたりの前提です。


 逆説的に敗者を虐め過ぎるから、勝負は不必要なまでに過酷になり


 さらには負けが人生終了と同義になっているのじゃ?


 もう日本の文明力は、そこまで未開じゃありません。

 結婚できなかろうと、経済的に失敗しようと、それを理由に排除せずとも世の中を回せていけます。

 低所得な独身として趣味に生きようと、それの何が悪いんです?


 結婚もしようとしましたし、経済的に成功もしようとしましたけど、それは叶いませんでした。

 でも、だからって嫁をよこせとか、平等な富とか言いだしてません。

 世の中のメインは、真っ当に結婚して子供を作る人達とも認めてもいます。


 この前提なら、私も世界の隅っこで自由に生きて良いのでは?


 ……あるいは同じように負けてしまった貴方も。



○しめ


 この状況だと無敵の人が生まれたりして――


 やはり誰もが勝てる社会が理想か


 と勘違いしてしまいそうですが、それは遠い理想郷であり、誰かの犠牲無くして成立しません。

 また、下の世代を踏み台に?

 それとも前時代のように、どこかの民族を奴隷にしますか?

 ……そうされるのが恐ろしくて、祖父さんや曾祖父さん達は、全世界を相手に戦争までしたのに?


 悲しいことですが現実は勝負を求めてきます。

 そして誰にも負ける可能性が。

 また負けを認めなければ、勝ちも認められなくなってしまいます。


 勝負が避け得ぬのなら、目指すべきは負けの痛みを、緩やかに受け止められる社会であり――


 誰もが勝てる世界ではありません


 決して、それを目指す指導者を仰がないでください。それは詐術の類であり、必ず破綻します。

 そして貧富の格差は不可避であり――

 高度成長期やバブル期を基準に推し量ってもいけません。

 それだと国民の半分近くが負け組になってしまいますし、異常な結論です。

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