【短編】勇者、異世界から帰還す。

羽黒楓@借金ダンジョン発売中

勇者、現実世界に帰還す。

 転んで頭を打って死んだ俺は、異世界転生した。

 そしてそこで冒険者養成学院に入学し、たくさんの好敵手と出会った。

 俺たちはお互いに切磋琢磨し、立派な冒険者となった。

 そして学院卒業後はそんな好敵手だったやつらと俺はパーティを組んだ。

 もちろん目的は魔王討伐だ。


 本当に、頼りになるパーティだった。


 女騎士タリアース。

 とんでもない巨乳のくせに、計り知れないほどのスピードを誇った。

 その素早い剣さばきは強大なモンスターですら見きることが出来ないほどの速さだった。

 魔王を守る三魔神を倒せたのは、彼女の力によるところが大きい。


 魔道士クース。

 こいつは二十歳の女性とは思えないほどのちびっこで、身長が135センチ、しかしその智謀は魔王をも超えると言われた。

 みんなでやっとのことで手に入れた古代の魔導書。

 絶対に解読できないと言われたこの魔導書をクースは完全に理解し、魔導書に書かれていた禁忌の攻撃魔法を使いこなした。

 クースがいなければ魔王城を攻略することなどできなかっただろう。

 

 呪術師ピーパ。

 猫耳の生えた獣人だったが、故郷に伝わる呪術のちからで、仲間がどんなひどい怪我を負っても、あっというまに治癒させてみた。

 俺ですら、冒険の途中で何度も死にかけたが、最高のタイミングで治癒呪術を発動させ、俺を完全回復させてくれた。

 こいつがいなかったら、俺達の冒険は失敗に終わっていただろう。

 あと全身がモフモフしていて触ると最高に気持ちが良かった。

 ……今になって思うと、悪かったと思う。

 俺はこいつのこと、ずっとオスだと思ってたのだ。

 魔王を倒したあとに実はメスだったってことを知って、思わず土下座しちゃったぜ。

 モフモフが気持ち良すぎて触りまくってたからなあ。


 そして。


 勇者、サトル・サトー。

 俺だ。

 勇者と言っても女騎士タリアースほどの剣技もなければ、魔道士クースほどの攻撃魔法も使えない。呪術師ピーパのような回復呪文だって苦手だった。

 だが、このパーティメンバーに助けられ、俺はついに伝説の力――〝操空術〟を手に入れたのだ。

 これは、大気中に存在する空気を自由自在に操れるもので、攻撃にも防御にも使用できた。

 さらには、魔王を蘇らせた悪魔元帥ギースを倒し、ギースが封印していた伝説の鎧を手に入れることができたのだ。

 この鎧は選ばれし勇者しか装備できない、と伝承されていたが――。

 俺が手を触れると聖なる光を放ったのだった。

 そう、それが勇者サトル・サトー、つまり俺が無敵の伝説の鎧を手に入れた瞬間だった。

 最終決戦では、魔王のすべての攻撃を伝説の鎧が防いだ。

 俺自身にはみじんもダメージが入らなかった。

 そして俺は、空気の動きを完全に止めることで絶対零度の空気の剣を作り出し、魔王の首を叩き落としてやったのだ。


 魔王を倒したことで、伝説にある通り、ポータルが開いた。

 これは望む世界にワープできるというものである。

 つまり、これを使って俺はこの現代の世界に戻ろうというのだ。

 パーティメンバーとの別れはつらいものだったが、仕方がない。

 あと、ポータルを使っての移動は一方通行で、一度移動したら二度と戻れない。

 

「笑えよ、最後に見たみんなの顔が泣き顔だなんて、俺はいやだぜ」


「う、うん……」


 女騎士タリアースが涙を拭いて無理に笑顔を作る。


「よし、じゃあ俺は行くぞ。みんなと一緒の冒険は楽しかったぜ」


 俺はポータルに足を踏み入れる。

 パーティメンバーが俺を見ている。

 みんな、笑顔だ。

 ポータルのちからが発動し、俺の身体がワープしようとしたそのとき――。


 ピーパが叫んだ。


「ボ、ボクはほんとはサトルのことが好きだったんだ! 触られるのもいやじゃなか――」


 言葉を最後まで聞くことなく、俺は現代のこの世界に帰還することとなった。


 今、俺の目の前に広がるのは、中世風の世界の荒野ではなかった。

 ビルが立ち並びぶ、現代の都市。

 というか、新宿駅前だ。

 多くの人々が歩いている。

 

 ついに、ついに俺は帰ってきたんだ――!


 道行く人サラリーマンっぽい人に聞く。


「あの、今は何年ですか?」

「は? あんた、それ、コスプレ? 鎧なんか着ちゃって暑くないの?」

「いやあ、あははは。今日って何年の何月何日ですか?」

「ほれ」


 サラリーマンは手に持っていたスマホの待ち受けを俺に見せた。

 2025/09/02

 と表示されていた。


 やった!

 俺の死んだ日からまだ3日しか立っていない!

 家に、家に帰れる!

 母さんや、妹に、十数年ぶりに会えるんだ!


 俺は叫んだ。


「飛空術!」


 空気を自在に扱える能力、俺は現実世界に帰還してもその能力を持ったままだった。

 俺の身体が宙に浮く。

 よし、空を飛んで一気に実家に戻ろう。

 実家は山形だけど、飛空術を使えばあっという間だ。

 俺は高度一万メートルを時速500キロで飛べるのだ。

 空気を操れるので寒さも酸素の薄さも問題にならない。


 俺は新宿駅前で飛空術を発動させ――。

 思いっきり飛んだ。

 俺は知らなかった。

 

 今が、西暦2025年ではなく、宇宙暦2025年であることを。


 異世界の時間の進み方と、現実世界の時間の進み方が違うことを。


 地球は環境汚染によりもはや人が住めなくなっていることを。


 人類は巨大な宇宙ステーションを建造し、移住できる惑星を探して銀河系の中を旅していることを。


 高度一万メートル?


 あほか、宇宙ステーションの居住空間の高さは5000メートルしかなかった。


 つまり、俺の身体は宇宙ステーションの天井をぶち破った。

 極めて頑丈に作られていた船体ではあったが、俺が身につけていた伝説の鎧の強度が船体の強度を上回ったのだった。

 宇宙空間に放り出された俺は、しかしまだ意識を失っていなかった。

 ピーパが俺にかけてくれていた自動回復の呪文の効果が俺を守ったのだ。

 天井をぶちやぶった衝撃で死にかけた俺の身体は即時回復する。

 

 俺の操空術は空気を操るスキル。

 空気が存在しない宇宙空間では俺にできることはなにもなかった――。

 

 超巨大な宇宙ステーションの生み出す重力に引き戻されて、再び宇宙ステーションへと〝落下〟する俺。


 そしてそこにあったのは――。


 宇宙ステーションの心臓とも言える、核融合エンジン。

 その中心部に、決して破壊されない伝説の鎧を身にまとった俺の身体がぶち当たり――。

 そして、すべてが終わった。

 どんな小惑星の激突にも耐えられるように設計されていたはずの船体も、俺の伝説の鎧の前では豆腐みたいなもんだった。

 核融合エンジンが爆発し、人類の生き残り――数億人はいたはずだ――は一瞬にして絶滅することとなった。


 ピーパと獣姦プレイを楽しむべきだった、と思いながら、俺は宇宙空間をしばらく漂い、そのうち空腹で餓死した。


 次の異世界転生を期待していたのだが、そんな都合のいいことは起こらず、俺という存在は〝無〟となって完全に消え去った。

                             【了】



――――――――

あとがき

私はいったいこれ、なにを書いたのでしょうか?

自分でもわかりません

だれか教えて下さい

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