第2話
【VLD】というVRMMOは、数多くの存在しているVRMMOの中で、唯一、経済圏と呼ばれるほどのシステムが構築されている。
私たちの暮らす国であり、人々が暮らす現実世界に数ある国の中で三指に入るほどの経済力・軍事力を誇る大国【イノベント皇国】にある最大規模の企業群【案堂グループ】が、管理や発行・流通を担っている【
これまでにも、プレイしてお金を得られる~というシステムのゲームは、VRMMOより以前に流行していたゲームにも存在していた。
しかし、そのどれもが、一時の、ほとんど投機と言っても過言ではない脆さでしかなくて。定着することはなかった。
そんな中、VLDはどうして経済圏を構築することができたのか。
私のようなテクノロジー素人には考えも及ぼないような技術力の進化もあるだろう。
でも、私のような技術ド素人が思う最大の理由は、一つ。
やっぱり、ゲーム内通貨と、現実世界で高い利便性を誇るポイントとの交換、つまり両替が容易くおこなえるところだろう。
皇国で流通している数あるポイントシステム……営利企業が発行している疑似通貨の中でも最大流通総額を誇る大和ポイントは、法定通貨並みの利便性がある。それはもはや、通貨を所持していなくても、ポイントさえあれば生活に困らないくらいだ。
大和ポイントは、まず、皇国最大のコングロマリットである案堂グループの、あらゆるサービスの支払いに対応している。電気・ガスの支払いも、不動産の購入も、家具・電化製品の購入も、食材の入手も、薬品代や医院の治療費も、大和ポイントで解決できるのだ。
大和ポイントさえ得ることができれば、皇国内では生きていくことに苦労はしない。
そんなポイントに、ゲーム内で稼いだ通貨を両替することができる。
だからこそ、VLDは経済圏を確立し、定着させることに成功したのだろう。
今、老若男女関係なく最大の娯楽であるゲームで稼ぐため、多くの皇国民がVLDに時間を費やしている。大半は、稼ぐ感覚なく、ただゲームを楽しみながら、気付いたら溜まっていたレッジをポイントに交換しているライトゲーマーだ。
だが、中には、VLDを本業にしているヘビーゲーマーもいる。
私も、その一人だ。
※
「うひゃ~、今日もドロッドロに赤いねぇ~」
「ねぇ~、えっっっぐい! 不気味ぃ~!」」
ツキちゃんとハルちゃんの会話に、私も「うんうん」と頷いて返す。
「相変わらず、ここは毒々しいねぇ~」
視線の先、少し離れたところに広がっているのは、真っ赤な大湖沼。
名を【
【グレイアスラ山岳地帯】というフィールドにある、【ベイツグランド巨大縦穴】というダンジョンの最深部にあるエリアだ。
「見たところぉ~~~、ほかにプレイヤーいないかな?」と、ツキちゃん。
「そうっぽぉ~い! 独占だねっ独占! やりやすいやすやすぅ~い!」と、ハルちゃん。
「うん。じゃあ、早速、手筈通りにいくよ。二人とも、護衛お願いしまぁす」
「「はいよぉ~!」」
私たち三人は、湖沼へと近づいていく。
そして――プログラムで定められているラインを一歩、超えたとき。
真っ赤な水面が、とぷん、と波打った。
さざ波は加速度的に勢いを増す。
次から次に波紋が湧き立つ。
ゴボゴボゴボッ――中央に大小の泡が生まれては弾ける。
水面が、一気に、膨れ上がった。
「――ゴァァァァァァァア!」
膨張していた水が飛沫に変わり、中から現れたのは巨大な大蛇。
エリアボス【腐食血の大蛇】だ。
次の瞬間、エリアの構造が変わる。
それまで湖沼の周囲はただの黒茶の岩や土だったのが、深紫色に輝く花が無数に咲き誇り、深紫の輝く樹木が生えたのだ。
「キタキタキタキタァ~ア! 採取するから、二人ともお願いっ!」
「「りょ!」」
求めていたアイテムの出現に、私は興奮しながら早速作業に取り掛かる。
できるだけ多く採取するために、遠くの花木から砕いていくことにした。
湖沼の右側へと、私は駆け出す。
すぐ横、湖沼と私の間に入る形で、ハルちゃんが並走してくれる。
「――ゴァァァァァア!」
再びの、大蛇の咆哮。
「アンタの相手はツキだよぉ~ん!」
走りながらチラを見れば、ツキちゃんがすでに展開していた大弓で攻撃するところだった。物理法則なんてない巨大な弓を細腕で軽々と構え、右手で弦につがえて放たれたのは薄青色の光をまとった矢。【清廉】という、毒や呪といった系統のモンスターに対してダメージ増加効果を与えるという属性を持った矢だ。
清廉な矢は、大蛇の頭部にヒット!
地響きが如き唸り声をあげながら、大蛇はツキちゃんに突進する。
「あったらないよぉ~ん!」
敏捷性のステータス値が高いカノジョは、くるくるりんと見事な回避し、すぐに私たちとは逆方向へと駆け出した。
地面を削った大蛇が、そのままの勢いで、ぐわぁんとツキちゃんを追う。
これを砕こうと決めた花木の下、私は背負っているリュックを置く。
「ハルちゃん、お願いねっ!」
「あいよっあいよぉ!」
ハルちゃんが、私を背に庇うようにして、愛用の武器を展開する。
どんっとカノジョが置いたのは、私とハルちゃんを揃って覆い隠すほど大きな盾だ。続けて、大楯の内側に嵌められていたものを外した。カノジョが軽く手を振ると、それはガシャンと金属音をあげて伸びた。嵌められていたそれは、全長三メートルほどの剣。
大弓のツキちゃん。
筋力や敏捷性などの戦闘向きな値にも振ったステータスではあるが、バトルプレイヤーと比べて重量にかなりのぶん費やしている採取プレイヤーの私を守ってくれる、頼れる相棒たち。
私は都合さえ合えば、いつもこの可愛い双子姉妹にお願いして、仕事をしているのだ。
電脳経済ビッグバン☆採取家少女のイキカエリ 富士なごや @fuji29nagoya
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