目撃者0

ざしき

目撃者0

活気にあふれる住宅街でも、一本外れた深夜の路地裏は物音一つ聞こえない、そこで獲物を待ち伏せる獣のように息を殺す。

いつも通りなら、獲物はここを通るはずだが、緊張で鼓動が速まる。心臓の音が、とても五月蝿い。

騒がしい鼓動をかき消すかのように、「小さな音」が聞こえた。音が近づいてくる。

はやる気持ち抑え、気配を消すよう努める。


コツ…コツ…


小さな音だが静寂の中では、轟くように感じられた。

音がすぐ隣から響いてくる。向こうはこちらに、気づいていないようだ。音を立てないよう、抜き足で近づく。数十センチしかない距離が、途方もないようだった。

獲物のうなじを捉える。首に素早く縄を巻き付けると、驚いた顔で俺を見る。

「あ……ゔぁ……」

獲物は言葉にならない悲鳴をあげながら、力強く暴れまわる。俺も負けじと縄を絞めると、徐々にだが、動きが弱まる。絞め続けると、獲物は動かなくなった。

「あとはこいつを処理するだけだ」

もう、動かない肉の塊を見て、そう思ったとき視界の端に最悪のものを捉える。


「人だ。誰かがこっちをみてやがる」


アリバイ工作、殺人の実行、遺体の処理、全て完璧に準備してきたが、もう何の意味もない。

殺害現場を見られた。どんなに完璧なアリバイがあろうが、犯行を目撃されては、どうしようもない。

「あいつも、殺らなければ俺は終わりだ!」

目撃者に向かい走り出す。やつも逃出すが、俺の方が速い。距離がだんだん縮む。目撃者の背中に飛び掛かる。今度は縄など使う余裕もなく、手で首を絞める。

想定外の殺人や道具を使っていないことも、相まってなかなか動きが止まらない。手を通して、相手の鼓動と体温が伝わる。酷い気分になりながら、絞めているとやっとこいつも動かなくなった。

「とりあえずはこれで犯行を見たやつはいないな」

死体が一つ増えてしまった。速く処理しなければと焦る。



いや待て。

「まだ俺の犯行を見ているやつがいるじゃないか」

そいつを始末するのが先だと、気づく。





































「次は、おまえだ」

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目撃者0 ざしき @zashiki1

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